最新記事
ガザ侵攻

ガザ地区の弱者にとってイスラエルの空爆が意味するもの

Palestinians With Disabilities in Gaza Have No Hope for Surviva

2023年12月26日(火)17時37分
ムハナド・アラッツェ(ヨルダンの元上院議員・人権問題の専門家)
ガザ地区のラファ

弱い立場にある者は、避難するのも救助されるのも最後になることが多く、生き残れる可能性が最も低い(2014年のイスラエル軍のガザ侵攻で負傷した男性、ガザ地区のラファ)REUTERS/Ibraheem Abu Mustafa 

<イスラエル軍の攻撃開始から約2カ月半で住民の死者が2万人を超えたといわれるガザで生きるというのはどういうことか。しかも弱者として>

<動画>娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

ガザ地区の人道状況は極度に悪化している。同地区を実効支配するイスラム組織ハマスによる10月7日の残虐行為に対してイスラエルが報復攻撃を開始して以降、何万人ものパレスチナ人が命を落とし、ガザの町はがれきに埋め尽くされている。国際社会はこれを強く非難しているが、忘れてはならないのが最も弱い立場にある人々、とりわけ障害者の存在だ。


ガザ地区において、障害のあるパレスチナ人が直面する危険は紛争前と比べて桁違いに大きくなっている。戦争になって、最初に命を落とすのは多くの場合が障害者だ。避難するのも、迅速に動くのも、健常者よりずっと難しいからだ。イスラエル軍がガザ市民に対して、居住地域や近隣の建物に爆撃を行うと警告しても、市民が戦闘地域から退避するための「人道回廊」を設置しても、障害者は避難できないことがあまりに多い。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが、ガザ地区に暮らすパレスチナ人の障害者に聞き取り調査を実施したところ、自宅から避難することができた場合でも、障害者はそれまで以上に大きな恐怖に直面していることが分かった。

戦争でますます弱い立場に

「避難することができた人々が語ったのは、自分のニーズに合わせて設計された家を離れ、車椅子や歩行器、補聴器などの補助器具を手放さなければならないことの恐怖だった」と同団体は説明した。

皮肉だが、パレスチナ人の障害者の多くは、過去の戦争でイスラエルの爆撃を受け障害を負った人々だ。たとえばサミ・アルマスリ(50)はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、2008年にイスラエルによるドローン攻撃で足を失ったと語った。彼は現在、ガザ市のアルクッズ病院に避難している。「イスラエル軍がこの病院を爆撃すれば、私は死ぬだろう。自分が動けないのは分かっている」と彼は語った。

平時でさえ社会から取り残されがちな障害者は、危機や戦争が起きるとますます取り残されることになる。最も弱い立場にあるのに、避難するのも救助されるのも最後になることが多く、生き残れる可能性が最も低い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中