最新記事
中国

李克強前首相「突然死」中国政治に異変の予感!?

2023年10月30日(月)20時48分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
習近平体制の下、影が薄かった李克強前首相が心臓発作により68歳で逝去

李の死去を報じるテレビニュース(10月27日、北京のレストランで) TINGSHU WANGーREUTERS

<習体制で日陰に追いやられた男の急死、その衝撃に不穏な空気も>

中国の李克強(リー・コーチアン)前首相が10月27日、心臓発作で死去した。68歳だった。今年3月に首相を退任するまで10年間にわたり、名目上は中国のナンバー2の地位にあったが、実質的には習近平(シー・チンピン)国家主席の下で影の薄い存在だった。

中国共産党の有力幹部の息子だった習と異なり、李は1955年、安徽省の地方官僚の息子として生まれた。文化大革命後に北京大学に進学。当時の同級生たちによると、李は頭脳明晰な半面、軽はずみな発言が将来の出世の妨げにならないよう細心の注意を払っていたという。

若い頃から幹部候補生と位置付けられていた李は、共産党のエリート青年組織である中国共産主義青年団(共青団)の幹部としてさまざまな役職を経験する一方、北京大学で経済学の博士号も取得。中国の多くの高官とは異なり、李は論文を代筆させず、しかも賞まで受賞した。

98年には貧しい河南省の省長代理に就任し、その後、省長、同省の党書記を歴任した。その間、同省の経済成長を加速させる一方で、HIV感染拡大を招いた原因をめぐるスキャンダルを隠蔽。当局に批判的な活動家を逮捕し、内部告発者を黙らせた。

2004年には、北東部の遼寧省の党委書記に転任。共青団出身の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席と温家宝(ウエン・チアパオ)首相の秘蔵っ子と見なされるようになった。

2000年代前半の時点では、胡の後継者として党と国家のトップに就く有力候補とみられていた時期もあった。しかし、08年に筆頭副首相に就任して以降は、次期指導部では習がトップになり、李はその下でナンバー2になると思われるようになった。

当時の中国指導部は「集団指導体制」を採用し、強力なイデオロギーと政治的手腕を持つ習と、改革志向の実務派の李のコンビがうまく機能すると思われていた。国外の専門家の中には、李の旗振りで大々的な経済改革が推進される「リコノミクス」に期待する声もあった。

しかし13年に習体制が発足するとすぐに、習が絶大な権力を握っていることがはっきり見えてきた。李は下馬評どおりナンバー2の地位に就いたが、ほかの高官たちが続々と追放されるのを目の当たりにし、余計なことは何も言わないようになった。

昨年10月の共産党大会では、習による改革派勢力の一掃がついに完了し、共青団出身者の派閥も崩壊した。李も政治の表舞台を退くことになったが、最も残酷だったのは李の師匠である胡が習によって公の場で辱められたことだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中