最新記事
ロシア軍

ロシア軍、歴史ある「戦場の神」の火が消える危機

Ukraine Strikes Crippling Russia's 'God of War': Report

2023年9月6日(水)15時45分
デービッド・ブレナン

武器展示場に表れたロシアの自走式榴弾砲マルバ(8月18日、モスクワ)  REUTERS

<兵站の弱さのせいで、ロシア軍の砲撃部隊は量で圧倒する従来の戦術から精密攻撃への転換を強いられている>

<動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

ウクライナ東部の陣地を守るロシアの砲兵部隊は、ロシアの防衛線を破ろうとするウクライナ軍に対し、兵站反攻をロシア軍は阻止しようとしているが、砲兵部隊は兵站の弱さに苦しんでいる。

イギリスの王立統合軍事研究所(RUSI)が発表した報告書によると、戦況の悪化により、ロシア軍の砲兵部隊は伝統の戦術を変えざるをえなくなっている。砲兵火力は地上戦の勝敗を左右するほど重要で、「戦場の神」とも言われるが、ロシア軍ではその火力が消えようとしているのだ。

ロシア軍の砲撃能力は伝統的に精度より量に依存している。ロシアのウクライナ侵攻後も変わらなかったこの傾向が、現在は変化してきている、とRUSIの報告書は述べる。

「第1に、ロシア軍には砲撃の量を維持するだけの砲弾がない。第2に、大規模な砲撃に必要な兵站は探知されやすく、長距離の精密攻撃に対してあまりにも弱い」

「第3に、砲弾の発射位置を捉える対砲兵レーダーの喪失と砲身の摩耗により、量の攻撃の効果は減少している」

そのためロシア軍の砲兵は今、量よりも精度を重視せざるをえなくなっている。これは、ロシア製クラスノポール152mmレーザー誘導弾の使用順位が上がったことや、砲撃の調整にドローンの使用が増加していることに示されている。

軍の訓練が間に合わない

「大量の砲撃に頼るよりも、精度を最大化し、必要な砲弾数を減らす傾向にあるようだ」とRUSIは指摘する。そして、精密弾薬とドローン使用の増加、通信の改善といった取り組みはすべて、「時間の経過とともにロシアの砲兵部隊を大幅に強化する可能性が高い。懸念すべき傾向だ」と付け加えた。

だが、より高度な兵器を使ってより正確に砲撃を行うためには、ロシア軍にとって以前から問題になっていた訓練の質の向上が必要になる。戦時下の今、ロシア政府は訓練の有無にかかわりなく部隊の増強を優先しており、この課題はさらに困難なものとなっている。

「訓練がお粗末であれば、近い将来、解決する見込みはない」と、ロシアの軍事アナリストでフレッチャー法外交大学院の客員研究員パベル・ルジンは本誌に語った。「ロシア軍の人的資本は非常に低い。兵士であろうと将校であろうと関係ない」

仮にロシアが十分に訓練された軍隊を生み出すことができるとしても、そこには限界がある、とルジンは付け加えた。「砲撃に対するアプローチの変化は、砲弾の数が限られていることに由来する。しかし、ロシアはあまり多くの精密弾を生産することができない」

「誘導型ではないあらゆる種類の砲弾を100万発生産し、精密弾を数百発しか生産していないのであれば、そこから精密弾の生産を数万発に増やすことはできない」と、ルジンは言う。「さらに、ロシアは砲撃用兵器の減少に直面している。榴弾砲、多連装ロケット砲、そして砲身までもが減っている」

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増

ビジネス

7月ISM製造業景気指数、5カ月連続50割れ 工場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中