最新記事
南米

極右リバタリアンの皮をかぶったポピュリスト...アルゼンチン大統領選ミレイ候補、ダントツの強さの訳

MORE OF THE SAME

2023年9月6日(水)18時25分
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)
アルゼンチン大統領選ハビエル・ミレイ候補

通貨のドル化など過激な公約を掲げて予備選を制したミレイ ERICA CANEPAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<通貨ペソを廃止してドルに変える、中央銀行を文字通り「破壊する」など、過激な主張で支持者の熱狂を呼び起こすハビエル・ミレイ候補とは>

心理学者によれば、「確証バイアス」は脳が人間に仕掛ける最もありふれたいたずらの1つだ。私たちは信じたいことを信じ続けるために、知らず知らずのうちに事実をねじ曲げてしまう。8月にアルゼンチンの大統領予備選で首位に立った極右のハビエル・ミレイ候補(52)についても、多くの識者がこの確証バイアスに影響されている。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は予備選の結果について「労働の成果を奪う現体制を、中産階級が拒否したのかもしれない」と書き、ミレイが掲げる「市場開放、公共支出の削減、資本規制の廃止、国有企業の民営化」を称賛した。

そううまくはいかないだろう。アルゼンチンで起きているのは自由市場を求める草の根の運動ではなく、近年の中南米諸国が得意とする体制打倒の動きだ。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領もチリのガブリエル・ボリッチ大統領も、「寡頭政治」や「権力の座に居座る者」を痛罵することで政権を取った。「やつらを退場させる」と誓い、「ケツに蹴りを入れて」「支配層」を追い払うと豪語するミレイも同類だ。

ミレイは経済学者でしばしば自由意思論者(リバタリアン)と評されるが、それは違う。リバタリアンは選択の権利を重んじるが、彼は人工妊娠中絶や性教育にも反対している。またミレイが長年顧問を務めたアントニオ・ブシ将軍は、悪名高い軍事独裁政権下でトゥクマン州知事を務めた人物。ミレイは典型的な権威主義のポピュリストであり、右派に与しているのはたまたま与党が左派だからだ。

地味で静かな男が体制打倒をぶち上げることはまずない。また水色のスーツ姿で選挙カーから現金をばらまいたカルロス・サウル・メネム元大統領をはじめ、アルゼンチンの政治家は派手なパフォーマンスで知られる。しかしそんな国でもミレイは規格外だ。中央銀行を廃止し通貨をペソからドルに変えると公約。中央銀行を廃止するどころか、実際に「たたき壊し」てみせた。

彼が知名度を上げたのは、テレビに出演し中央銀行の模型を棒でたたき壊したのがきっかけだった。別の番組では「こんなクソはいらない!」とわめきながら、中央銀行と書かれた大きな黄色い風船を割った。注目されるのは破壊行為であって、その対象ではない。ミレイが壊したのが国会議事堂の模型でも、支持者は熱狂しただろう。

BAT
「より良い明日」の実現に向けて、スモークレスな世界の構築を共に
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米7月新築住宅販売0.6%減65.2万戸、住宅市場

ワールド

再送-アラスカ州の石油事業、日韓と協力へ=トランプ

ビジネス

Temuの中国PDD、4─6月期は競争激化で減益 

ワールド

中国、国境で6億人を感染症検査 ゼロコロナ政策の成
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中