最新記事
日本社会

日本の労働者の収入格差は、今やアメリカよりも大きい

2023年8月30日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
収入格差イメージ

日本の収入格差のジニ係数は、世界的に見ると真ん中より少し下の位置 Overearth/iStock.

<日本の収入ジニ係数は、一般的に偏りが大きいとされる値0.4を超え、労働者の収入格差がさらに拡大したことを示している>

世帯の所得格差を示すジニ係数が、2021年では過去最高の水準になったという。ジニ係数とは、国内の富の配分がどれほど偏っているかを数値化したものだ。「人口の上では〇%しかいない富裕層が,国内の富の△%を占有している」という現実が、0.0から1.0までの数値で表される。

興味が持たれるのは、国による違いだ。国際労働機関(ILO)の統計から、有業者の階層別(年収10分位)の収入内訳を国別に知ることができる。2020年の日本のデータを見ると、最も高い階層(第10階層)の人たちが得た年収が、全有業者の年収合算の28.3%を占めている。有業者全体の10%でしかない高所得層が、国内の稼ぎ全体の3割近くをせしめている、ということだ。

<表1>は、10の階層の人数と年収の内訳を示したものだ。

data230830-chart01.png

10分位階層なので人数は10%ずつ均等になっているが、年収は違う。最も高い階層(D10)が得た収入が全体の28.3%占める一方で、D1~D5の階層の割合は17.8%でしかない。下半分の人たちの収入合算は、最も高い1つの階層の人たちよりも少ない。少なからぬ偏りといえる。

ちなみにアフリカのウガンダでは、D10の収入割合は77.1%にもなる。有業者の1割でしかない最上位層が、稼ぎ全体の8割近くを占有している。にわかに信じ難いが、こういう国もある。

10の階層の人数と収入の分布のズレは、右欄の累積相対度数をグラフにすることで可視化される。横軸に人数、縦軸に収入を取った座標上にD1~D10の階層のドットを配置し線でつないだものだ。この曲線をローレンツ曲線という。

<表1>の累積相対度数をもとに、2020年の日本の収入ローレンツ曲線を描くと<図1>のようになる。

data230830-chart02.png

人数と収入の分布のズレの大きさは、曲線の底の深さ、すなわち色付きの部分の面積で示される。ジニ係数とは、この面積を2倍したものだ。分布のズレが全くない完全平等の場合、曲線は対角線と重なるのでジニ係数は0となる。逆に極限の不平等状態の場合、色付きの面積は四角形の半分となるので、ジニ係数は0.5を2倍して1.0となる。

ジニ係数が0.0~1.0の範囲となるのはこういうことで、各国の現実はこの両端の間に位置している。上図から日本の収入ジニ係数を出すと0.4414となる。一般にジニ係数は0.4を超えると偏りが大きいと言われるので、日本の労働者の収入格差は常軌を逸して大きい、とうことになる。参考までにウガンダの曲線(茶色)も添えたが、この国では曲線の底が深くジニ係数は0.8221にもなる。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米9月PPI、前年比2.7%上昇 エネルギー高と関

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、10月は1.9%上昇 ローン

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る 消費失速を

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中