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ミャンマー

ミャンマー「泥沼の国内闘争」が世界のリスクに...日本企業にも打撃

NO END IN SIGHT

2023年7月21日(金)16時00分
中西嘉宏(京都大学東南アジア地域研究研究所准教授)

基本的には国内の権⼒闘争だが、背後には分断した国際社会の影響もある。国軍による統治をほぼ追認しているロシアと中国、NUGを⽀持する欧⽶という構図である。欧⽶による経済制裁が国軍の強硬姿勢を軟化させる可能性は低く、圧⼒を強めるほど国軍は中国・ロシア寄りになっていき、東南アジア地域の不安定化を助⻑するというジレンマがある。中国のミャンマーへの影響⼒が増せば、インド洋をめぐってインドとの緊張が⾼まる。

このまま国内紛争の膠着状態が続けば、国軍による弾圧や抵抗勢⼒との衝突で死者や国内避難⺠がさらに増加するだろう。不安定な政治情勢下で分離独⽴を目指す少数⺠族勢⼒も現れ、麻薬⽣産などの国際犯罪の拠点がミャンマーで増加するリスクもある。
政治的不安定と低成長の時代がしばらくは続きそうだ。

日本への影響

現地通貨チャット安と輸出不振による慢性的な外貨不足で統制が強まり、日本企業も縫製業などを除き外貨取得と原材料などの輸入許可で困難に直面。ミャンマーへの投資が評判リスクを伴うため、新規投資は低調だ。日本企業にも事業縮小や撤退の動きが見られ、これは今後も続くだろう。

日本政府が持つミャンマー国軍関係者との人脈もほぼ機能していない。民主制への復帰などを国軍に求めても、実質はASEANによる問題解決の後方支援にとどまる。これまでの有償資金援助による政府貸し付けの返済が滞ることも予想される。長期的不安定を見越した対ミャンマー政策の再検討が必須だ。

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