最新記事
ミャンマー

ミャンマー「泥沼の国内闘争」が世界のリスクに...日本企業にも打撃

NO END IN SIGHT

2023年7月21日(金)16時00分
中西嘉宏(京都大学東南アジア地域研究研究所准教授)
ミャンマー軍の兵士

ミャンマー軍の兵士、2021年2月 REUTERS/Stringer TPX IMAGES OF THE DAY

<膠着化した内戦で軍は中ロへ接近、東南アジアの不安定化を助長しつつある。本誌「『次のウクライナ』を読む 世界の火薬庫」特集より>

2021年2月1日にクーデターが勃発してから2年半近く、今もミャンマーの政治情勢は安定しない。今年2月1日には、国軍最高司令官であるミンアウンフライン将軍が非常事態宣言を再度延長して、国軍の直接統治の継続を決定した。

最大都市ヤンゴンのような都市部は国軍の実効支配の下にあり、次第に新型コロナ禍前の喧騒を取り戻しつつある。その一方で中央平野の北西部や、少数民族が多く暮らす北部、南東部では、国軍とその支配に抵抗する勢力との間で武力衝突が続いている。今その抵抗の中心に、かつてこの国の民主化運動を率い、非暴力主義でノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチーはいない。彼女は国軍に拘束されたままだ。ミャンマーという国家の正統性をめぐって、国軍と新しい抵抗勢力が真っ向から対立しているのである。

国軍はクーデター以来、アウンサンスーチー政権の選挙不正や腐敗の追及を続けてきた。3月には与党である国民民主連盟(NLD)が政党としての法的地位を失った。国軍は新たに再選挙を実施して、自身にとって都合のよい親軍政権を打ち立てたいもようだ。

ところが、クーデターへの市民の抵抗がやまない。やまないどころか、平和的な抵抗から武力闘争路線へと急進化した。対して国軍は各地で弾圧を強化し、その弾圧に巻き込まれた民間人犠牲者の数は今や3700人を超えている。今年の4月にはザガイン地域の村を国軍の戦闘機が攻撃して約170人が犠牲になった。こうした残虐な弾圧は内外からの反発を生むばかりで、国軍が目指す政治的安定は簡単には訪れそうにない。

国軍に対する抵抗は複数の勢力が緩やかな連合を組むことで進んでいる。具体的には、NLDの中堅幹部が中心となって設立した国民統一政府(NUG)、次に、クーデターへの武力闘争に参加している若者たち、そして、長く国境地域で国軍に抵抗をしてきた少数民族武装勢力の一部である。これら抵抗勢力は、国軍の部隊にゲリラ戦を仕掛けることで打撃を与え、中央平野北西部の農村部に実効支配地域をつくり上げた。さらに自らを正統な政権であると主張し、国軍をテロリストと呼んで革命を目指している。しかし、軍事力が不足しているため、国軍に勝利することは外部からの武器支援がない限り困難だろう。

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「トランプ口座」は株主経済の始まり、民間拠出拡大に

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中