最新記事
NATO

エルドアンの賛成でNATOまた拡大、見限られたプーチン

Putin Is Rapidly Running Out of Allies

2023年7月12日(水)18時10分
ブレンダン・コール

すきま風?(昨年10月、カザフスタンの首都アスタナで会談したエルドアン大統領とプーチン大統領)

<スウェーデンのNATO加盟に反対していたトルコが承認に転じた。プーチンの盟友といわれていたエルドアンだが、プリゴジンの反乱を見て見放したか>

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近いと見られている人物だが、最近になって、プーチンに背を向けたようだ。

NATO拡大を阻止することは、プーチンがウクライナに侵攻した理由のひとつだった。だが7月10日にエルドアンがスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げた結果、プーチンが敵対するNATOは、ウクライナ戦争前の30カ国32カ国に増えてしまうことになった。ロシアの脅威を受けるフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国が、数十年にわたる中立を放棄して加盟するからだ。

これまでスウェーデンの加盟に難色を示してきたエルドアンが突然同意に転じたのは、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴンがプーチンに対して武装反乱を起こしてからわずか2週間後のことだった。

また、プーチンに連帯を示してきたもう一人の指導者、ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、エルドアンより先にスウェーデンの加盟承認を発表していた。

「エルドアンは、プリゴジンの反乱の後、プーチンに賭けるのは賢明ではないと判断したのかもしれない」と、安全保障問題に強いアメリカのシンクタンク、アトランティック・カウンシルのダニエル・フリード研究員は本誌にメールでコメントを寄せ、6月24日の武装反乱に対する対応は、プーチン政権の弱さを示していると付け加えた。

ロシアに与えた屈辱

エルドアンはこれまで、ロシアのウクライナ侵攻に反対しつつ、プーチンとの親密な関係を維持するという難しいバランスをとってきた。時には、プーチンとトルコの「特別な関係」を宣伝することもあった。

エルドアンは西側の対ロシア制裁に加わることを拒否した。その一方で、トルコがウクライナに提供した無人機はロシア軍への攻撃に使われている。またウクライナからの穀物輸出再開では国連とロシアの間を取り持ち、世界的な食糧危機を食い止めた。

「トルコは決して正式な意味での同盟国ではなかったが、対ロ禁輸措置には加わっておらず、ロシアの主要な貿易相手国だった」と、ノースカロライナ州にあるデューク大学のティムール・クラン教授(政治学)は言う。

クランによれば、エルドアンが最近、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対して、ウクライナが将来的にめざすNATO加盟を支持し、さらにウクライナ南部マリウポリでロシアの捕虜になり、トルコに留め置かれていた武装組織の司令官5人を本国に連れ帰ることを認めたことは注目に値する。ロシアはこれに対し、2022年の囚人交換協定に違反すると反発した。その後、トルコはスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げた。「すべてが72時時間以内に起きた」

「トルコは目に見える形でロシアに屈辱を与え、トルコが西側の一員に復帰することを明らかにし、ロシアの拡張主義に抵抗するNATOの結束を固めた」と、クランは本誌に語った。「その過程で、トルコはロシアをさらなる孤立に追い込んだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中