最新記事
ロシア

プーチンが反乱首謀者プリゴジンをすぐには処刑しない理由

Putin's New Prigozhin Dilemma

2023年6月29日(木)16時44分
イザベル・バンブルーゲン

今頃大衆の人気取り?南部ダゲスタン共和国で市民と触れ合った、とする映像の一場面(6月28日)Sputnik/Gavriil Grigorov/Kremlin/REUTERS

<簡単には「抹殺」できないプリゴジンを「腐った嘘つき」に仕立てようと画策している>

民間軍事会社ワグネルの反乱はたった1日で幕を閉じたが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の権力基盤に与えた打撃は測り知れない。本来ならワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンをすぐさま「処刑」するところだが、プーチンは直接手を下すのはまずいと判断したと、米シンクタンクが分析した。

<動画>弱いロシア軍に不満?プーチンが露骨にショイグをシカトする衝撃映像

有力シンクタンク・戦争研究所(ISW)は6月27日に発表したウクライナ戦争の最新分析で、6月24日に起きた「ワグネルの乱」に対するプーチンの反応を評価した。

ロシア連邦保安局(FSB)は6月27日、この武装反乱に対する刑事捜査を早々と打ち切った。しかもプーチンは長年否定し続けていた事柄を公然と認めた。長きにわたり親密な関係にあったプリゴジンの運営する「民間軍事会社」に、ロシア政府が資金と装備を提供していたことを認めたのだ。

昨年9月までロシア政府はワグネルなど知らないとシラを切っていた。ロシアの法律では傭兵の活動は禁じられているのだ。

資金支援を認める

プーチンが一転してワグネルに資金提供してきたことを認めたのは、プリゴジンが配下の兵士にロシア軍指導部に抗議する「正義の行進」を呼びかけたためだ。プリゴジンは反乱を指示する前から、ここ数カ月、ウクライナ侵攻作戦をめぐり、ロシア軍上層部と激しい確執を繰り広げていた。セルゲイ・ショイグ国防相がワグネルの兵士を指揮下に置こうとして、7月1日までにロシア軍と契約を結ぶよう義務付けたことも、対立を激化させた。

プリゴジンの命令で反乱軍は首都モスクワに向かったが、クレムリンによれば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で交渉がまとまり、ロシア人同士の「流血」を回避できた。プリゴジンは反乱罪に問われないことになり、ベラルーシに逃れたとされている。

反乱が収束した今、プーチンはプリゴジンを「腐敗した嘘つき」に仕立てようとしていると、ISWは指摘する。ワグネルの兵士に加え、ロシアの世論の一部もプリゴジンを支持しているため、信頼を失墜させようと躍起になっているのだ。

ワグネルはロシア政府から独立した組織で、その人員が死亡するか負傷しても国家は何の補償もしない、とプリゴジンは主張していたが、それは嘘だと、プーチンは27日に軍関係者らとの会合で示唆した。

ただし、この場でプーチンはプリゴジンを名指しで非難せず、終始「コンコルド社のオーナー」と呼んでいた。プーチンによれば、コンコルド社は「ロシア軍への食料提供サービスで」、2022年5月から2023年5月までに800億ルーブル(約9億3600万ドル)を受け取っていたという。「この取引で何らかの不正がなかったか捜査を行うつもりだ」と、プーチンは付け加えた。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中