最新記事
ロシア

プーチンが反乱首謀者プリゴジンをすぐには処刑しない理由

Putin's New Prigozhin Dilemma

2023年6月29日(木)16時44分
イザベル・バンブルーゲン

ISWの分析によれば、プーチンのこの発言は「不正取引の罪でプリゴジンの資産を押収するための地ならし」の可能性がある。

さらにプーチンは「意図的にプリゴジンとワグネルの切り離しを図っている」と、ISWは指摘する。「プリゴジンからワグネルの創設者という肩書きを奪い、ワグネルに対する指導力を低下させようとしている可能性がある」というのだ。

「ロシア政府としては、ワグネルの兵士を正規軍に組み入れて、ウクライナ戦争で引き続きその戦力を使いたい」。そのために、プリゴジンを国家からせしめた金で私腹を肥やし、ウクライナや西側と結託した極悪人に仕立てる「情報工作」を始めた可能性があると、ISWのアナリストはみる。

「プリゴジンは、ロシア軍とロシア政府の官僚が腐敗し、西側と結託していると批判することで、自身のブランドを確立してきた。プーチンはそれと同じ罪を彼に着せることで、大衆のプリゴジン支持を切り崩そうとしているのではないか」と、ISWの報告書は述べている。

プリゴジンの支持者はロシア市民や正規軍の兵士の間にも一定数いるため、彼を処刑すれば、彼は大義のために殺された「殉教者」に祭り上げられるだろう。そのことはプーチンも承知している。

プーチン支配の終わりの始まり

「クレムリンはプリゴジンの支持者を幻滅させ、ロシア国内でのプリゴジン人気をつぶす必要がある」と考え、「引き続き人格攻撃を行い、評判を貶めて、資金力を完全につぶし、ワグネルの兵士が彼に付いてベラルーシに行くのを防ごうとするだろう」と、ISWは予測している。

一方ルカシェンコは27日、プリゴジンはベラルーシに到着したと発表した。

ロシアの元外交官で、ウクライナ侵攻に抗議して外交官職を辞したボリス・ボンダレフは、プリゴジンの乱はプーチン支配の終わりの始まりだと本誌に語った。

戦争が長引くにつれ、ロシアのエリート層はプーチンに不満を募らせていると、ボンダレフはみる。今の空気ではプーチンがお払い箱になるのは時間の問題だというのだ。

「戦争は既に1年4カ月も続いており、誰もがしびれを切らしている......状況が悪化の一途をたどるなか、国内のムードは変わりつつある」

ボンダレフによれば、「エリート層の間では失望、怒り、焦燥感がじわじわと蓄積していた」。そこに反乱が起きたことで、ウクライナ侵攻は「重大な間違い」であり、今のロシアは「非常に不健全な状況に陥っている」と、多くの人が気づき始めたというのだ。

こうした意識は早晩、「プーチン退陣」を求める巨大なうねりになると、ボンダレフはみる。「プーチン追い落としの動きはこれからさらに活発化するだろう。表立った反乱ではなく、おそらくは密かな策略の形で......」


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

BofAのCEO、近い将来に退任せずと表明

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

家計の金融資産、6月末は2239兆円で最高更新 株

ワールド

アブダビ国営石油主導連合、豪サントスへの187億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中