最新記事
ブータン

首相が語る、「世界一幸せな国」ブータンが「カーボン・ネガティブ」で進む道

A BALANCING ACT

2023年6月16日(金)12時55分
ダニシュ・マンズール・バット(本誌アジア版編集ディレクター)

230620p50_BTN_04.jpg

2011年に婚礼の儀を終えた直後の国王夫妻 TRISTON YEO/GETTY IMAGES

──ブータンについて世界が注目するのは、もっぱらGNH、すなわち国民総幸福量という指標だが。

ブータンはGNHの概念を提唱した国として世界中に知られている。私たちは平和な地に暮らす、とても幸せな国民であることを世界に示している。だが私たちが世界に伝える以上に大事なのは、世界が私たちから何を学びたがっているかだ。教える側がいくら熱心でも、相手に耳を傾ける意思がなければ意味がない。

──近い将来における国家としてのブータンの優先課題は?

私たちは独自の歴史、伝統、文化、環境を大切にしてきた。その結果、(世界で初の)カーボン・ネガティブの国となった。独自の制度のおかげで、GNHの原則と哲学を世界に伝えることができる。

他国にはない独自の特徴があるのだから、その独自性に根差して豊かになること、技術立国を目指すこと、苦境に耐え得る強固な経済を築くことを優先すべきだろう。ブータンの経済発展は他国とは全く異なる形を取るはずだ。

ブータンには独自の特徴があると言ったが、「教育と医療」もその1つ。今の国王も代々の王たちも社会的平等を実現するにはまず全ての国民に教育と医療を保障する必要があると考えてきた。

国家が費用を負担する。子供の教育費や自分が病気になったときのことを心配せずに済む。それが豊かさの大前提だ。

──教育といえば、世界の変化や技術の進歩に対応できる人的資源を確保するための新たな取り組みは?

技術教育と職業訓練の必要性を痛感している。(従来は識字率の意味で使われていた)リテラシーの定義が変わりつつあり、デジタル知識が求められていることも......。

そこで私たちは教育全体のICT(情報通信技術)化を進めようとしている。カリキュラムも変え、教師にICT教育をしなければならない。教育インフラをデジタル化し、教師と学生・生徒の意識を変えなければ。

ブータンは2年前から全ての学校でプログラミング言語教育を行っている。正規の教育は5歳から始まる。今は就学準備段階からプログラミング言語を教えている。子供たちは(ゲームだと思って学習とは)気付いていないかもしれないが......。

国王が私費を投じ全ての学校で(ゲームを通じてプログラミング言語を学べる)「コード・モンキー」を利用できるようにした。奥地の学校にはICTラボを設置している。

全ての子供に信頼性の高いインターネット接続を提供したいが、現状では難しい。それでもそうなりつつある。既にほぼ全ての学校が光ファイバーでネットにつながっている。生徒たちが活用できるよう、教育コンテンツのデジタル化も進めたい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン核施設攻撃「中核部分破壊されず」と米情報機関

ワールド

英、35年までに国防関連費をGDPの5%へ引き上げ

ワールド

トランプ氏、NATO相互防衛条項に疑問呈す 首脳会

ビジネス

対米直接投資が第1四半期に急減、トランプ関税巡る不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 7
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 8
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 9
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 10
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中