最新記事
韓国

「戦争が始まる!?」北朝鮮ミサイルへの警戒警報発令で、ソウル市民は混乱

2023年6月5日(月)18時31分
佐々木和義

5月31日、ソウルの街頭で、北朝鮮によるロケット発射のニュースを見る人々  REUTERS/Kim Hong-Ji

<5月31日、北朝鮮は「人工衛星」を打ち上げると日本政府に通告し、ミサイルを発射。韓国・ソウルでは、警戒警報が発令され、市民の多くが北朝鮮との戦争が始まると混乱をきたした......>

5月31日朝、韓国各地でサイレンが鳴り響き、6時41分、ソウル市は「6時32分、ソウル地域に警戒警報発令。国民の皆様は避難する準備をして、子どもと老弱者がまず避難できるようにしてください」と報じるショートメール(SMS)を発信した。SMSを受け取った市民の多くが北朝鮮との戦争が始まると考えた。

状況がわからないまま不安に襲われたソウル市民

韓国と北朝鮮は国際法上、休戦となっている。韓国は北からの攻撃に備えて徴兵制度を導入し、徴兵を終えた人たちで予備隊を構成するほか、空襲に備えた民防衛訓練を行なっている。民防衛訓練は親北を掲げた文在寅前政権時代から中断していたが、今年5月16日、6年ぶりに実施した。

訓練開始を告げる民防空サイレンが鳴ると国民は予備役軍人等で構成された民防衛隊員の指示に従ってシェルターなどに避難する。屋外や公共施設にいる人は全員参加が義務付けられている。

5月31日朝のサイレンは民防空サイレンと同一で、空襲サイレンとも呼ばれている。訓練等の予告はなかったし、そもそも訓練は通常、午後2時から開始される。朝に実施されることはない。警察や消防は電話が殺到して繋がらず、政府の関連サイトもシェルターの場所や避難方法を調べる人たちのアクセスが集中してサーバがダウンした。

状況がわからないまま不安に襲われた市民の多くがシェルターに向かったが、施錠されて入ることができないシェルターやごみが放置されていたシェルターもあったという。民防衛訓練が行われなかった6年の間にシェルターとしての機能を失っていたのだ。

「誤発令」は否定したソウル市

警戒警報発令から22分後の7時3分、政府行政安全部がSMSで「ソウル市が発令した警戒警報は誤発令」と伝えて収束するかに見えたが、さらに22分後の7時25分、ソウル市は「北朝鮮のミサイル発射により緊急案内メッセージが発信されました。ソウル市の全地域警戒警報が解除されたことをお知らせします。市民の皆様は日常生活に復帰してください」とSMSで発信した。戦争の危機が迫ったが、回避されたと受け取れる内容で、ふたたび混乱が広まった。

呉世勲(オ・セフン)ソウル市長は記者会見を開いて「市民の安全責任を負うソウル市は即時の措置が必要と判断し、警報を発令した」と述べ、混乱を招いたことには謝罪したが、誤発令は否定した。

同日、韓国政府は「太平洋諸島フォーラム(PIF)」会議に参加した5か国の首脳に医療サービスを体験してもらう予定だったが、ソウル市の警報発令を知った各国首脳が拒絶して中止となった。医療観光の誘客を期待した政府の思惑をソウル市が妨害する結果となったのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:来るAI端末競争、オープンAIはまず軽量

ワールド

マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極

ワールド

タイとカンボジア、戦闘継続 トランプ氏との電話協議

ワールド

フィリピン中銀、0.25%利下げ 予想通り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中