最新記事
ウクライナ情勢

「世界の関心が失われないように...」ウクライナ人歌手もコメディアンも戦い続ける

Pop Culture Goes to War

2023年6月1日(木)19時00分
マイケル・ワシウラ(在ウクライナ)

「まいた種は刈り取れ」

「隣国に攻め込んでジェノサイド(民族大虐殺)に等しいことをやれば、そう思われても仕方がない」と言ったのは、米シンクタンク「戦争研究所」のフレデリック・ケーガン。

「ウクライナの民族主義とウクライナ人のアイデンティティーをここまで高めたのは(ロシアの大統領ウラジーミル・)プーチンの功績だ。いま私たちが目にしているのは、ロシア的なものを完全に捨て去ったウクライナ人のアイデンティティーの出現だ」

両国の歴史は長く重なり合っていて、それだけ結び付きも深かった。ウクライナでは1991年に独立を果たしてからも、多くの国民がロシアへ出稼ぎに行っていた。アーティストにしても、冒頭のへイルより上の世代は、ロシアとロシア語圏を主な活躍の場としていた。

ウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは元コメディアンだが、彼も90年代後半に、モスクワで開かれる大会への出場を目指して一座が競い合うロシアのコメディー選手権で名を挙げた。

以前のウクライナにはロシア好きもロシア嫌いもいた、とケーガンは指摘する。この戦争が始まるまでは「ロシアが帝国主義的な態度を捨てれば、両国が友好関係を築ける可能性もあった。しかし、もう当分は無理だろう」。

ヘイルが歌手デビューを果たした10年代後半には、既に国内市場が育っていた。だから、ロシア語で歌わなくても食べていけた。ただし、まだロシア的なものを全て拒絶する必要はなかった。

キーウ音楽院に在学中、ヘイルはYouTubeに個人チャンネルを開設し、他のアーティストの曲をアカペラで歌っていた。中には、ロシアの人気歌手モネトチカの曲もあった。

しかしウクライナでの「特別軍事作戦」に一貫して反対してきたモネトチカは今年1月、ロシア政府によって「外国の代理人」に指定されてしまった。戦争がなければヘイルは彼女と自由にコラボもできたはずだが、もうそんなことはあり得ない。

「ロシアの文化は嘘ばかり。どんなつながりも、もう持ちたくない」と、ヘイルは言う。「文学の授業でも歴史の授業でも教わった。何百年も前から、ロシアは私たちの歴史を殺し、私たちの英雄を殺し、伝統を殺し続けてきた」

戦争が続くなかで発表した新曲で、彼女は歌う。

「奴らは幸せを爆破する/奴らは夢を撃ち落とす/でも私たち、魂までは奪わせない/自分のまいた種はちゃんと自分で刈り取りな/絶対に自分で刈り取るんだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中