最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ、ロシア後退した地域に訪れたのは安心ではなく「隣人への不信」

2023年5月22日(月)11時13分
ロイター

このような対ロ協力者を糾弾する動きは、ロシア軍がウクライナの領土から大きく後退した後、日常的に目にされる光景になっている。

キーウのある軍事アナリストの分析では、ロシアはこれまでに昨年2月の侵攻開始後に占領したウクライナ領の40%強を失っており、現在掌握しているのはクリミアを含むウクライナの約5分の1だ。

ウクライナ検察当局のウェブサイトを見ると、国内全体で対ロ協力者に関して5300件を超える捜査が進められている。ただ各捜査が具体的にどの段階かにあるかは、はっきりしていない。

氷山の一角

ロシアがヘルソンを占領した際には、同市や周辺地域がロシア領の一部に編入されるのを望むかどうかを決める住民投票を実施。ロシア側は編入が支持されたと発表したものの、ウクライナと西側諸国はこの投票結果に信頼性はないと切り捨てている。

こうした空気の中でロイターは、知人や関係者がロシアに協力した疑いがあると話す住民5人から話を聞くことができた。

またヘルソン地区検察幹部に取材したところ、対ロ協力容疑で立件された事案はこれまで152件で、地元議員や警察当局者、医師、ビジネスマンなど対象者は合計162人。早い段階で立件されて法廷での審理が行われた幾つかの事案では有罪が認定されている。この中には住民投票で賛成票を投じるよう働きかけたとの容疑もある。

ヘルソンはなお戦闘地域となっているため裁判所が稼働できず、別の場所で審理が進められている関係で手続きは遅れているという。

ただ立件されたのはあくまで氷山の一角かもしれない。ヘルソン地区のウクライナ治安当局の報道官は、詳しい内容には触れずに住民投票の組織化や運営に関与した1147人を特定したと述べた。

生き残る手段

ウクライナが計画している大規模な反転攻勢によってロシア軍をさらに領土外に駆逐できた場合、より多くの都市や農村で、ヘルソンが足元で経験しているような事態に直面しそうだ。

実際のところ、対ロ協力は人々が占領下で生き残るための厳しい選択という面がある。

例えば一部の農家は、純粋に事業を継続していくためだけにロシアの法制度に基づいた農場の登録を行ったため、訴追されかねなくなっている、とウクライナの農業団体は指摘する。

複数の団体は、対ロ協力を取り締まる法令はあいまいな部分があり、占領下で何とか生活を維持していこうとした人々の現実をきちんと反映するように改正しなければならないと主張している。あるいは、本物の裏切り者と生存のために行動した人を明確に区別するべきだ、といった声も聞かれる。

(Elizabeth Piper記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

まちづくり
川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に──「世界に類を見ない」アリーナシティプロジェクトの魅力
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

シェルCEO、欧州のエネルギー不足「来月にも」 影

ワールド

米、キーストーンXL一部復活計画の許可巡りカナダと

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、AIの投資判断を一部容認

ワールド

法律上できないことあると米側に説明、法律は憲法含む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 8
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 9
    表情に注目...ニコール・キッドマン、大富豪夫妻から…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中