人気を当てにしない「親日」尹大統領、1年目の成績表の中身とは?

Yoon’s Polarizing First Year

2023年5月15日(月)14時13分
カール・フリートホーフ(シカゴ国際問題評議会フェロー)

尹は専用機への搭乗禁止を決めた理由として「国益」という言葉を用いた。くだんの映像はアメリカとの同盟関係を損なう恐れがあるという言い分だ。だが、どう見ても本音は「自身の利益」を守るためとしか思えない。

この映像が拡散した後に韓国ギャラップが実施した調査で、尹の支持率は24%まで下がり、自身の最低記録を更新した。厳しい結果だ。

保守派の牙城である60歳以上でも、60代の過半数(57%)は大統領としての仕事ぶりを評価しないと回答。70歳以上でも、支持率は46%にとどまった。その他の年齢層では、3分の2以上が不支持だった。

その一方、尹の支持基盤はMBCへの報復を大歓迎した。当時の全国指標調査(NBS)によると、大統領専用機への搭乗禁止には与党支持者の64%が賛同した。

ちなみに国民全体では、65%が不適切だと回答していた。その内訳は最大野党「共に民主党」の支持者10人のうち9人に上り(92%)、無党派層でも68%だった。しかし尹は、そんな党外世論を無視して突き進んだ。

これ以外にも、尹政権は大統領に不利な報道をしたジャーナリストに法的手段で対抗している。例えば、韓国国防省の元報道官の著書を紹介した記者を名誉毀損で訴えた。

その本では、大統領執務室を青瓦台(大統領官邸)から移転する決定に、尹夫妻がシャーマンを関与させたと指摘されていた。訴訟は今も続く。

名誉毀損で報道機関を訴えること自体は、韓国の政界では珍しくもない。だが注意したいのは、こうした強硬姿勢を示すことで尹の支持率が下げ止まった点だ。つまり尹は、外からの批判を封じ込めることで内なる支持基盤を固めることに成功した。

尹政権に保守派の血が流れていることの証しは、かつて尹自身がトップを務めていた最高検察庁の復権だろう。現在、検察庁を統括する法務部を長官として率いるのは、尹の側近で元検事の韓東勲(ハン・ドンフン)だ。

多くのメディアは、検察が2022年の大統領選で尹の対抗馬だった最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表を城南市長時代の背任罪などで起訴したことに注目している。

前政権で活躍した高官たちも次々に起訴されている。かつて国家安全保障室長を務めていた徐薫(ソ・フン)は、北朝鮮近海での韓国人漁業関係者の死亡に関して情報を隠蔽した疑いで22年12月に逮捕された。

彼は今年2月にも、「脱北」した船員2人を本人の意思に反して強制送還した疑いで、他の高官と共に起訴されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡りトランプ氏との会談求める

ワールド

タイ・カンボジア両軍、停戦へ向け協議開始 27日に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中