最新記事
教育

大学院生を悩ます「多額の借金」の実態

2023年4月19日(水)10時40分
舞田敏彦(教育社会学者)
大学院生

博士課程への進学者数は2000年代以降、減少傾向にある Tzido/iStock.

<4人に1人が300万円以上、7人に1人が500万円以上の借金を抱えている>

大学の上には大学院がある。「学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする」機関だ(学校教育法99条)。

大学院は、かつては研究者養成の機能が強かったが、現在では高度職業人養成の役割も担うようになっている。理系の専攻では、大学卒業後に大学院に進学する者も多い。

大学院となると、入学時の年齢は22歳を超えているため、学費や生活費をもう親には頼れないと、奨学金を借りる学生が少なくない。貸与の額も高めに設定されていて、修士課程は月額5~8万円、博士課程は8~12万円だ(第1種〔無利子〕)。2020年度から給付型奨学金が導入されているが、大学院生は対象外なので、もっぱら貸与型を利用することになる。

全国大学院生協議会が2020年に行った調査によると、大学院生(修士課程、博士課程)の43.8%が貸与奨学金を使っている、ないしは使ったことがあり、今後返済の必要があると答えている。調査時点での借入額を問うと、59.8%が300万円以上、35.3%が500万円以上、3.1%が1000万円以上と回答している。これらの数字を使って、大学院生の奨学金に関する組成図を描くと<図1>のようになる。

data230419-chart01.png

貸与奨学金の返済義務があるのは43.8%で(横軸)、縦軸において借入額の分布を示している。これを見ると、多額の借金をしている学生が結構いることが分かる。院生全体(四角形全体)に占める割合にすると、4人に1人が300万円以上、7人に1人が500万円以上の借金をしている。博士課程の院生に限ったら、この比重はもっと大きくなる。

当然、借金をしていることへの不安はぬぐえない。就職できなかった場合、返していけるのか。不安で、研究が手につかない者もいるだろう。博士課程にあっては特にそうだ。

少子化の影響もあり、大学等の研究職(正規)のポストはどんどん減っている。非正規雇用(非常勤)の比重も高まっている。修士課程で月8万円、博士課程で月12万円借りた場合、5年間の総額は624万円。正規のポストへの就職が叶わなかった場合、非常勤講師等の薄給から返済していかなければならない。「高学歴ワーキングプア」へと一直線だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃訓練開始 演習2日目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中