最新記事
教育

大学院生を悩ます「多額の借金」の実態

2023年4月19日(水)10時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

こういう博打はしたくないのか、大学院博士課程への入学者数は減少傾向にある。ピークの2003年では1万8232人だったが、2021年では1万4629人。<図2>は、1990年の数を100として、大学院への入学者数の推移をグラフにしたものだ。

data230419-chart02.png

大学院重点化政策により1990年代は入学者数が増えたが、2000年代初頭以降、修士課程は横ばい、博士課程は減少の傾向をたどっている。大学の学部生が増えているのとは対照的だ。上記のような経済不安のためでもあるだろう。

ヒトしか資源のない日本において、高度専門人材を志す若者が減るのは由々しきことだ。科学技術立国の姿とは程遠い。大学院修士課程では授業料を徴収せず、卒業後に「出世払い方式」で払ってもらう、博士課程の授業料を大幅に減免する、大学院生を大学の臨時職員に雇用する等、様々な支援策が考えられてはいる。だが給付奨学金については対象外で、文科省は「稼得能力のある大人であるため」という趣旨の理由説明をしている。

教育を受けられるのは22歳までで、それ以降は自己責任という「年齢主義」の考えが透けて見える。事実、日本の年齢別の在学者数をグラフにすると、22歳から23歳にかけてガクンと落ちる「L字型」になる。これでは、生涯学習社会の実現などおぼつかない。法で定められた「教育の機会均等」に、年齢制限などない。

*表現の正確性を期すため、「大学院生(修士課程・博士課程)の43.8%が貸与奨学金を使っている、ないしは使ったことがあると答えている」を「~貸与奨学金を使っている、ないしは使ったことがあり、今後奨学金の返済をする必要があると答えている」に、また「貸与奨学金を使っているのは43.8%」を「貸与奨学金の返済義務を負っているのは43.8%」にそれぞれ修正しました(2023年5月16日18:30)。
ニューズウィーク日本版編集部

<資料:全院協「大学院生の研究・生活実態に関するアンケート 調査報告書」(2020年度)
    『文部科学統計要覧』(2022年度)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中