最新記事
国際法

「独裁者を任期制」にする国際法を真剣に考える時期にきている

HALTING THE AUTHORITARIAN DRIFT

2023年4月9日(日)10時10分
カウシク・バス(コーネル大学教授)
ダニエル・オルテガ

ニカラグアのオルテガ大統領は憲法改正で無期限再選を可能に YAMIL LAGEーPOOLーREUTERS

<独裁者は当該国だけの問題ではない。世界中に波紋を広げ、万人の利益に反するからこそ、各国元首の任期を世界統一基準で縛る国際法が必要>

国際刑事裁判所(ICC)は3月17日、ロシアのプーチン大統領に対し、戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行した。ウクライナの子供たちを強制的にロシアへ連れ去ったことの責任を問うものだ。これによりICCに加盟する123の国と地域は、その機会があればプーチンを逮捕する義務を負う。

今やプーチンは、冷酷で奔放な暴君と化した。それだけでなく、彼の行動はより大きな流れを象徴している。それは、世界で民主主義がこれまで以上に窮地に立たされているという状況だ。

民主主義・選挙支援国際研究所(本部スウェーデン)の報告書「民主主義の世界的状況」を見れば、世界で民主主義が危機的なほどに衰退していることが分かる。昨年調査した173カ国の半数以上で、民主主義は熾烈な攻撃に遭っていた。

何とも憂慮すべき事態だ。グローバル化が進んだ世界では、強権主義を抑えるという課題を個々の国だけに任せられない。そうなると問題は、ICCのような国際機関に何ができるかという点になる。

強権的な政治指導者は実は不安感にさいなまれ、暴君へと変貌する傾向がある。その危険性を私が思い知ったのは、2013年にニカラグアの独裁者ダニエル・オルテガと首都マナグアで会った後のことだ。

腐敗したソモサ政権を倒したオルテガに、私は学生時代から尊敬の念を抱いていた。ようやく会えたそのときには、サンディニスタ革命やニカラグアの抱える課題についてじっくりと語り合った。

ところがその後、オルテガの暴君ぶりが次々と明るみに出た。会ったときには気付かなかったが、私が話をした男はソモサを倒したときの彼ではなく、かつて自身が対峙した存在そのものになっていたのだ。

もう当該国だけの問題ではない

なぜこうなるのか。政治指導者はいずれかの時点で、自身の任期を延長する努力をすべきかどうか決断を迫られる。きれい事では済まないのが政治だから、倫理的な一線を越えようという誘惑が必ず生じる。

経営
「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑むウェルビーイング経営
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ルクオイル株凍結で損失の米投資家に資産売却で返済、

ビジネス

英中銀当局者、金利見通し巡り異なる見解 来週の会合

ビジネス

ネトフリのワーナー買収、動画配信加入者が差し止め求

ワールド

中ロの軍用機が日本周辺を共同飛行、「重大な懸念」と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中