最新記事

ハイチ

摘発すべきはギャングとエリート──国家を食い物にしてハイチを「崩壊国家」に追い込む悪い奴らの実態

HAITI’S HOMEGROWN ILLS

2023年3月2日(木)15時02分
ロバート・マガー(政治学者)

約1800キロの入り組んだ海岸線に囲まれ、ドミニカ共和国と約400キロの陸の国境を接するハイチ。この地理的条件が密輸対策をさらに困難にしている。これでは警察と国境・沿岸警備隊の規模が今よりはるかに大きくても、巧みに抜け穴を見つける密輸業者を止められないだろう。

しかもハイチは食料と燃料をほとんど輸入に頼っているため、沿岸には貨物船が活発に行き交うが、沿岸警備は手薄どころの話ではない。数艇の巡視船が就航不能か修理中で、いま使える船は1艇しかないのだ。

そうしたなかでもハイチ税関は密輸品に目を光らせ押収しているが、彼らの職務はまさに命懸けだ。最近では中部ベラデールで税関トップの暗殺未遂事件も起きた。

税関職員の決死の努力にもかかわらず、空と海に監視の目が行き届いていないばかりか、空港と港湾の人手も足りない。税関にはスキャナーやX線検査装置もないありさまで、この国の国境はまさに穴だらけだ。

治安を回復するには、治安要員の派遣と人道援助に加え、統治機構と選挙制度の改善を支援する包括的なアプローチが必要だ。国連安保理と数カ国の政府は、より広く捜査の網を張ってギャングに資金を提供しているエリートに制裁を科すことを検討している。

また国連ハイチ安定化ミッションもハイチ政府の要望を受け、ハイチの秩序回復のため各国の治安要員で構成される特別部隊を派遣するよう加盟国に訴えている。

ハイチの人々は伝統的に外国の介入を嫌う傾向があるが、今では国民の70%が治安回復のためには外国の支援が必要だと考えている。特にギャングが支配する地域では警察力の増強が急務で、国際社会の支援を待ち望む声が多い。

ギャングの資金源対策が先決

数カ国の国連加盟国は緊急支援のための特殊部隊の派遣案に支持を表明。一部の国は自国の警察要員と軍事要員を提供すると申し出ている。

しかし治安を回復するには、地域ぐるみの犯罪対策や刑法の改正、腐敗一掃など、やるべきことが山ほどある。現状で最優先すべきは人道援助であり警察力の増強、犯罪集団の摘発、武器と麻薬の密輸取り締まり、国境警備と税関の業務支援だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内

ワールド

スマトラ島洪水、活動正常化には数カ月=プラボウォ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中