最新記事

トルコ

全てエルドアンのせい──トルコの大惨事は大統領の人災だ

Erdogan Invited the Tragedy

2023年2月21日(火)11時40分
ギョニュル・トル(米中東研究所トルコ担当理事)
トルコ

トルコ南部を襲った地震で生じた壊滅的な被害は、エルドアン政権の腐敗も原因 UMUT UNVERーDIA IMAGES/GETTY IMAGES

<1999年の大地震に教訓を学んだはずが、利権まみれの政権運営で安全軽視。国民の命を犠牲にした例はこれだけじゃない>

ベフザットが子供時代を過ごした家は倒壊した。近年まれに見る巨大地震に襲われたトルコ最南部の都市アンタキヤ。年老いた父親がその家の下敷きになっていた。素手で必死に瓦礫を取り除いたが、両脚をコンクリートの塊に挟まれているので助け出せない。

ベフザットは父の体に毛布をかけ、頭上に傘を差しかけて「すぐに助けが来るから」と言って励ました。

それから苦悶の24時間が過ぎ、ベフザットは妻のゴクジェ(筆者の妹だ)に、父を見に行ってくれと頼んだ。「俺には合わせる顔がない。助けが来ると言ってしまったんだ。来るわけないのに」

ベフザットの父は死んだ。母も、いとこたちも死んだ。みんな死んだ。助けてくれる人は一人も来なかった。

瓦礫の下で死んでいったのは大切な家族だけではない。良い統治、汚職のない国、国民に寄り添う政府という空疎な約束も、そこで息絶えた。

そんな約束をしたのは大統領のレジェプ・タイップ・エルドアンだ。トルコでは1999年にも北西部で大地震があり、政府の対応の遅れにより何千もの犠牲者が出た。その後の混乱に乗じて、エルドアン率いる公正発展党(AKP)は台頭したのだった。

当時のエルドアンは汚職の蔓延や無能な政府、そして無責任な国家機関を痛烈に批判し、自分が政権を取れば全てを変えると約束した。

【動画】遅刻したエルドアンに待たされモジモジするプーチン

実際、変わったこともあり、変わらなかったこともある。連立政権の足並みが乱れ、政府の意思決定が遅れる日々は去った。その代わり、エルドアンは20年かけ、せっせと自分自身に権力を集中させた。

その過程で国民に奉仕する国家機関を骨抜きにし、自らに忠実な人物だけを要職に据え、口うるさい市民団体を一掃し、周囲を少数の取り巻きで固めてきた。

そこへ襲いかかったのが2月6日の巨大地震。もちろん地震の規模は大きかったが、腐敗した国ほど地震などの災害による犠牲者が多いとする学術的データもある。

無視された安全基準

エルドアン政権下のトルコ経済は建設ブームに沸いた。エルドアンはインフラ建設事業の発注に当たって公正な競争入札を行わず、まともな耐震基準の審査もせずに、自分とつながりのある業者に仕事を任せた。結果、地震の頻発地域でも、いいかげんな建物がどんどんできた。

今回の被災地ハタイ県では住宅だけでなく、病院や首相府災害危機管理庁(AFAD)の地方支部までも倒壊し、あるいは使えないほどの損害を被った。どれも、エルドアンの取り巻き企業によって建設されたものだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

週末以降も政府閉鎖続けば大統領は措置講じる可能性=

ワールド

ロシアとハンガリー、米ロ首脳会談で協議 プーチン氏

ビジネス

HSBC、金価格予想を上方修正 26年に5000ド

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 4
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 10
    男の子たちが「危ない遊び」を...シャワー中に外から…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中