最新記事

米中関係

中国「スパイ気球」騒動と「U2撃墜事件」の奇妙な類似

2023年2月6日(月)11時50分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
偵察気球

モンタナ州の上空で確認された中国の偵察気球(2月1日) CHASE DOAKーREUTERS

<既に悪化していた米中両超大国の関係はまた少し冷え込んだ>

ブリンケン米国務長官は2月3日、予定していた中国訪問の延期を決めた。モンタナ州の核兵器施設に近い上空で、バス3台分の大きさの機器を積んだ中国の偵察気球が確認されたことを受けた措置だ。

【動画】米戦闘機F-22が中国の偵察気球を撃墜する瞬間

宇宙空間から詳細なデータを収集できるスパイ衛星に比べれば、高高度に浮かぶ気球は大したことがないように見えるかもしれない。だが、気球には利点もある。製造コストが安価で、何カ月も飛べる。予測可能な軌道を移動する人工衛星と違い、上空を「ぶらつく」こともできる。そして撃墜するのは意外と難しい。

かつては行き先は風任せという明白な欠点があった。だが、今は気流を利用して気球を一定方向に誘導できる。

それにしても、中国が重要な外交日程直前にこうした挑発に出るのは奇妙だ。特に今の中国はパンデミック後の対米関係修復に力を入れている。

中国がアメリカの核施設偵察に強い関心を持っているのは確かだ。米政府も中国の核戦力増強を注意深く監視している。アメリカには機密性の高い軍事施設が多数あり、軌道をそれた気球が接近する可能性は十分ある。

今回の騒動は、中国の軍や安全保障部門の内部にいる反米派による意図的な挑発だった可能性もある。しかし、実際には単純ミスの可能性のほうが高い。そもそも気球をアメリカの領空に送り込む意図はなかったのかもしれない。

中国がこの偵察システムをしばらく前から使っていて、アメリカはそれを知りながら外交的判断に基づき対応しなかった可能性は極めて高い。この種の侵入は以前にもあったと、国防総省の報道官は記者会見で認めている。

今回の騒動は気球が民間人に探知可能な低空を飛行していたため、米当局も動かざるを得なかったというのが実情のようだ。

中国当局はこの気球について、偏西風の影響でコースを外れた気象観測気球だと主張。米領空への「意図しない進入を遺憾に思う」と発表した。中国側が公式に非を認めることは難しいので、この立場を変える可能性は極めて低いが、密室で何らかの報告や謝罪があるかもしれない。

だが中国から見れば、アメリカの対応は偽善的に映るだろう。アメリカと同盟国は数十年前からさまざまな監視技術を使い、中国領土を詳細に観察してきた。国防総省は少なくとも2020年から「スパイ気球」を運用している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB当局者、6月利下げを明確に支持 その後の見解

ビジネス

米住宅ローン金利7%超え、昨年6月以来最大の上昇=

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は1%増益 利益が予

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中