最新記事

インド

放火、強姦、死者1000人超...インド史に残る「黒歴史」を蒸し返されたモディ首相の怒り

Modi’s Hidden Past

2023年2月1日(水)18時02分
サリル・トリパティ
スナク英首相とモディ印首相

英印貿易協定を結びたいスナク英首相(左)にとって、インドのモディ首相の「過去」は予想外の障害になりそうだ(2022年11月、インドネシア・バリにて) LEON NEALーPOOLーREUTERS

<英BBCの番組が告発した20年前の事件におけるモディ現インド首相の役割。英印関係の強化を目指すスナク英首相の足かせにもなっている>

インドのナレンドラ・モディ首相の「古傷」に新たな注目が集まっている。英BBCが『インド:モディ問題』と題された2部構成のドキュメンタリー番組を放送したのは1月17日と24日のこと。その焦点となったのは、2002年にグジャラート州で起きたヒンドゥー教徒とイスラム教徒の衝突におけるモディの役割だ。当時モディは、同州の首相だった。

■【動画】02年暴動で集団強姦と殺人を犯した11人が釈放...英雄のような歓迎を受ける様子

3日間にわたる激しい暴力と、その後約1年続いたグジャラート州各地での衝突で、1000人以上が犠牲になったといわれる。このうち790人がイスラム教徒だった。

20年前の事件を掘り返すこの番組に、モディ率いるヒンドゥー至上主義の与党・インド人民党(BJP)は激怒。インドでは放映されていないものの、政府は番組を「植民地時代の思考」に基づくものだと批判して、情報技術法に基づきインターネットを通じた番組映像の共有を禁止した。

しかしこの措置は、かえって番組への注目を高めることになり、番組のダウンロードを可能にするリンクが、野党政治家や学生などの間で共有される事態になっている。

この騒動に頭を抱えているのはモディだけではない。インド移民を両親に持つリシ・スナク英首相は、英経済を立て直すべく、インドとの関係を強化して、2国間貿易協定を結びたいと考えてきた。

だが、前途は多難だ。イギリスとしては、インドが求める留学生や企業幹部に対するビザ発給拡大に応じるわけにはいかないし、インドも、法律や金融分野の市場開放に応じるつもりはない。

インドは今、政治的にも微妙な時期にある。欧米諸国はインドを民主主義のパートナーと見なし、中国のライバルになれる国と考えている。

だが9年近くにわたるモディ政権の下で、インドでは政治的自由が制限されるようになってきた。活動家は投獄され、イスラム教徒などマイノリティーの権利は縮小されてきた。こうしたモディの政策は、24年の総選挙で問われることになるだろう。

虐殺を暗に推進した疑い

そんななかで放送されたBBCのドキュメンタリーは、モディにとって過去の亡霊を呼び起こすものだ。

グジャラート州で列車火災が起こり、59人が死亡する事故があったのは02年2月。ほとんどは聖地を巡礼した帰りのヒンドゥー教徒だった。火災の原因については今も議論があるが、事件直後はイスラム教徒の仕業とされた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訪米中の赤沢再生相、ラトニック商務長官と電話会談

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 10
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中