最新記事

中国

中国はなぜ趙立堅を表舞台から引っ込めたのか

Why Did China Banish Its Chief ‘Wolf Warrior’?

2023年1月12日(木)17時42分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)

趙立堅報道官が異動しても、アメリカは騙されない(2022年3月18日) Carlos Garcia Rawlins-EUTERS

<新型コロナの中国起源説や新疆ウイグルの人権問題などで率先して諸外国に噛み付いてきた「戦狼外交」の顔が裏方に回された意味は>

中国の強硬な「戦狼外交」の顔として知られてきた趙立堅が、中国外務省の副報道局長から、隣国との国境画定や海洋問題の管理を行う国境海洋事務局に異動したことが明らかになった。新部署でも報道官時代と同じ副局長のポストに就くことになるが、表舞台からは姿を消すことになる。

趙がツイッター上で存在感を確立し、大きな注目を集めるようになったのは、在パキスタン中国大使館勤務時代(2015~2019年)だった。

当初のツイートは主にパキスタン国民に向けたもので、地元の文化を称えたり、中国・パキスタン経済回廊における中国の役割を擁護したりする内容だった。ツイッター名を「ムハンマド趙立堅」に変えたことまである(中国の外交官が地元色の強い名前を名乗るのは珍しいことではない)。彼の姿勢はパキスタン国民の間で共感を呼んだが、2017年4月に新疆ウイグル自治区で、ウイグル文化の弾圧の一環としてイスラム風の名前の使用が禁じられ、趙も「ムハンマド」の使用を撤回し、かえって裏目に出ることになった。

2017年までには、ツイッター上での反米姿勢が趙のより大きな特徴となり、その強硬な外交スタイルから(2017年に公開された好戦的かつ愛国主義な映画のタイトルにちなんで)「戦狼」外交官と呼ばれるようになった。彼のツイートの多くは、新疆ウイグル自治区での中国政府の残虐行為についての否定や反論で、これが評価されて2019年には名誉ある報道官のポストに昇進した。彼に触発されて、その外交スタイルを真似る者も多くいた。

オーストラリアをフェイク写真でディスる

2009年〜2013年にかけて米ワシントンに赴任していた頃の趙と仕事をしたアメリカの外交官たちは、当時の趙は控えめな若手外交官だったと記憶している。趙はその後の数年間で大きな変化を遂げたことになる。

その好戦的な外交姿勢がピークに達したのが、2020年11月。新型コロナウイルスのパンデミックの起源をめぐってオーストラリアと中国の対立が激化していたとき、趙はオーストラリアの兵士がアフガニスタンの子どもを殺しているように見える合成写真をツイッターに投稿。国際社会の怒りを買ったが、中国国内では支持を集めた。

中国では2020年に入ってから、新型コロナのパンデミックの原因は、米メリーランド州にある米陸軍の医学研究施設「フォート・デトリック」の実験室から流出したとする陰謀説が広まったが、趙はこの陰謀説を先頭に立って拡散した。彼の好戦的かつ被害妄想的な外交スタイルは、国際社会からの孤立を深める中国の姿勢に合致しているようだった。例えば中国政府は2021年3月、新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に西側諸国が中国当局者に制裁を科したのに対抗して、EUの政治家などに報復制裁を導入し、これが原因で中国とEUの貿易協定の批准が凍結されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首

ビジネス

マスク氏が訪中、テスラ自動運転機能導入へ当局者と協

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中