「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線

THE ANXIETY EPIDEMIC

2022年12月23日(金)14時47分
ダン・ハーリー(サイエンスライター)

221115p48_FAN_04.jpg

カリフォルニア州の高速道路でステイホームを呼びかける電光版(20年4月) BRANDON COLBERT PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES

フォックスと米国立精神衛生研究所(NIMH)のダニエル・パインが共著論文で述べているように、繊細で怖がりの子供は「未知のものを過剰に恐れ、なじみのないものに過敏に反応する」あまり、自分の行動を抑制しがちだ。こうした子供は「同年代の子供と比べ自己主張が弱く、友達ができにくい」ため、自己肯定感が低くなる傾向があるという。

もっともパインによれば、幼児期に行動抑制が見られても大人になってから不安症になるとは限らない。行動抑制のある子供も約50%の確率で発症を免れることが分かっている。とはいえ子供全体では成長後に不安症になる確率は10%だから、行動抑制があればその5倍も発症リスクが高いということだ。

それでも物おじしがちな性質も、うまく導けば素晴らしい資質になると、フォックスは言う。「内気で用心深いことはちっとも悪いことじゃない。誰もがエネルギッシュで外向的である必要はない。私は研究対象の子供たちの成長ぶりを見守ってきたが、引っ込み思案だった子もちゃんと活躍の場を見つけている。例えば作家、シェフ、コンピューター科学者、音楽家といった職業だ」

生まれつき内気だったり外向的だったりするのは人間だけではない。気質の違いはほぼ全ての動物にある。今年6月に発表された論文によれば、ラットでさえ例外ではない。ペットを飼っている人なら誰でも知っているように犬や猫も同じ。生まれつき恐怖心が強い犬種や猫種がある。「私が飼っている犬は代々ラブラドール・レトリバーだ」と、フォックスは言う。「妹の愛犬はコッカー・スパニエルで、目新しくなじみのないものに出合うと大騒ぎし、極度に警戒する。私の犬とは大違いだ」

当然ながら、そうした気質の違いは部分的には遺伝子によるものだ。シルバーマンは6月に同僚と共に発表した論文で、子供の不安症の発症確率を2倍近く高める珍しい遺伝子の変異型について報告した。10月に発表された別の論文によると、司法試験を受ける学生の受験勉強のストレスに対する反応も遺伝子と関係があるようだ。

冒頭に紹介したランデロスにとっては、こうした研究結果は意外ではない。「夫も私も内気なタイプ」と、彼女は打ち明ける。「私はまだ人付き合いをしようと努力しているけれど、娘は完全に夫タイプ。彼のクローンかと思うほど性格はそっくり」

ウィスコンシン大学医学・公衆衛生学大学院の精神医学科の学科長で、米精神医学会誌の編集長でもあるネッド・ケーリンはストレスと不安の遺伝学・神経生物学的研究に何十年も取り組んできた。その驚くべき成果の1つは、長年恐怖をつかさどると考えられてきた脳の領域・扁桃体は遺伝学的に見て不安と関係がないと分かったことだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中