「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線

THE ANXIETY EPIDEMIC

2022年12月23日(金)14時47分
ダン・ハーリー(サイエンスライター)

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外出規制でロシアのウラジオストクのマンションにこもる女性 ANITA ANAND/GETTY IMAGES

「不安があるから崖から落ちずに済む」と、メリーランド大学小児発達研究所のネーサン・フォックス所長は指摘する。「不安は危険を警告し、命を守ってくれる。仕事のプレゼンにせよ初対面の人と会うにせよ、多少の緊張は集中力を高め、心の準備をするのに役立つ」

さらに近頃の世相ではニュースを見るなどして心配になるのはごく当たり前の反応だと、フォックスは言う。「心配のあまり仕事が手に付かないなど日常生活に支障を来すレベルでなければ特に問題ない」

米精神医学会発行の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」は世界中で採用されている精神疾患の診断基準だ。最新版の第5版では不安症は次のように定義されている。「過剰な」不安や心配にしばしば襲われ、その状態が少なくとも6カ月続き、①落ち着きがないか神経が張り詰めている、②疲れやすい、③集中できない、④イライラしやすい、⑤筋肉がこわばる、⑥よく眠れない、の6項目のうち少なくとも3つに当てはまること。

一方、USPSTFは不安症を7タイプに分類している。全般性不安症、社会不安症、パニック症、分離不安症、恐怖症、場面緘黙(ばめんかんもく)症(特定の状況下では話せなくなる)、そして「それらに該当しない」不安症だ。

こうした症状を見つけるために主として面接による診断ツールの開発が進んでいる。共通の診断基準の作成は、不安症を科学的に解明するための重要な一歩となる。80年代初めにボストン大学の心理学者、デービッド・バーローが開発した「不安症および関連症群面接マニュアル」の改訂版は今も使用されている。

バーローに続き、シルバーマンが子供の不安症に特化した診断マニュアルを開発。こちらは改訂なしで今も臨床試験で使われている。「研究の前提としてまず疾患を厳密に定義する必要がある」と、彼女は言う。

不安症の研究では発症リスクを高める要因の解明も重要な課題だ。例えば女性は男性より発症率が高く、離婚や死別で伴侶を失った人もリスクが高いことが分かっている。コロナ下での生活など心理的・社会的要因も関与しているだろう。

さらにUSPSTFによれば、不安症は鬱病と重なることが多く、鬱病患者の3人に2人が不安症を抱えているという。

遺伝より環境が大きく影響

レディー・ガガのヒット曲「ボーン・ディス・ウェイ」(「そう生まれついた」という意味)はある意味、的を射たタイトルだ。ここ数年、不安症の前駆症状は幼児期に「行動抑制」の形で表れることが分かってきた。行動抑制とは自分の行動に自分に待ったをかけることだ。

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