最新記事

カタールW杯

サッカー強豪国になったオーストラリア、牽引するのは難民とその2世たち

The Game Changers

2022年12月7日(水)13時48分
マシュー・ホール(ジャーナリスト)

だが、オーストラリアの主要メディアに黒人が登場することはめったにない。アフリカ系オーストラリア人のスポーツ選手にスポットライトが当たるようになったのも、ごく最近のことだ。

その背景には、この国の不快な移民政策の歴史がある。

1901年にイギリスから事実上の独立を果たしたとき、オーストラリアが最初に定めた法律の1つは移民制限法だった。

当時のアルフレッド・ディーキン司法長官(後に首相)は、同法が「有色人種の移民受け入れを一切禁止することを意味する」と語った。「『白人のオーストラリア』を守る政策(白豪主義)だ」

この白豪主義にようやく正式に終止符が打たれたのは、75年に人種差別禁止法が定められたときだ。

その後の移民・難民政策も寛容とは言い難かった。マビルら代表チームの選手たちは正規の難民受け入れプログラムで移住したが、密航業者などを頼って入国を試みれば、オーストラリアに定住することはほぼ不可能だ。

オーストラリア政府がボートで渡航する難民を拘束するようになったのは92年からだ。96~07年に首相を務めたジョン・ハワードは難民排除で有権者の支持をつかもうと、さらに厳しい措置を取った。

01年の総選挙を控えていた時期に、ハワード政権は難民を乗せたノルウェーの貨物船タンパ号の領海入りを禁じた。

タンパ号はインド洋で座礁した漁船に乗っていた400人余りの難民(大半がアフガニスタンから逃れてきた人たち)を救助し、オーストラリア領内の島に運ぼうとしていたのだ。ハワードが頑として受け入れなかったため、この一件は外交問題に発展。

オーストラリアとノルウェー、さらに漁船の出航地であるインドネシアの協議が紛糾するなか、最終的にニュージーランドが多くの難民を受け入れ、残りの難民は太平洋に浮かぶ島国ナウルに移送された。

タンパ号事件を教訓に、ハワードは後に「パシフィック・ソリューション」と呼ばれることになる政策を打ち出した。オーストラリアは不法入国者を自国に上陸させず、代わりにナウルとパプアニューギニアのマヌス島に収容施設を建設して、そこで難民審査を行うというものだ。

マヌス島の施設は過酷な非人道的施設として悪名高い。14年には待遇改善を求める暴動が起き、難民申請者の1人が施設職員に殺害された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中