最新記事

ウクライナ情勢

「プーチンが冬を武器として利用」──NATOが批判する理由

2022年12月5日(月)13時12分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)
ウクライナ軍の戦車

厳しい冬を敵に回すか味方にするかが、戦況の大きなカギを握りそうだ/BAZ RATNER-REUTERS

<ロシアとウクライナに「冬将軍」がやって来る。過去数カ月はウクライナ軍が戦場で攻勢をかけ、東部の広大な土地をロシア軍から奪還してきたが、厳しい冬の到来により戦闘はペースダウンしそうだ>

歴史を振り返ると、いてつく冬は、たびたびロシアにとって強力な援軍になってきた。過去に「冬将軍」がナポレオンやヒトラーの部隊の進軍を阻んだことは、よく知られている。しかし、今回の戦争でロシア軍が対峙している相手は、この土地の冬を知り尽くしているウクライナ軍だ。

専門家の見方によると、今回の戦争で、冬の気候はロシアとウクライナの双方に、別々の理由で恩恵と試練の両方をもたらす可能性が高い。

兵站の面では、欧米の支援を受けてきたウクライナ軍のほうが厳しい冬に対処しやすいだろう。対するロシア軍は、この戦争が始まった頃から兵站の面で苦労してきた。

もっとも、ウクライナ軍もさらなる攻勢をかけることは難しくなるだろう。木の葉がなくなって隊列が丸見えになり、しかも地面がぬかるむことの影響で、道路上を進軍せざるを得なくなるためだ。

「冬の間は、一部の作戦が減速する可能性が高い。その間、双方ともあまり大きな動きは見せないかもしれない」と、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は述べている。

ただし、冬の間にも状況は変化する。毎年2月頃にはひときわ厳しい冬が訪れて、地面が硬くなる。その結果、来年の早い時期には大規模な軍事作戦が可能になるかもしれない。「全般的にその状況を追い風にしやすいのは、ロシアよりウクライナだろう」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン上級研究員は言う。

一方、ロシア軍は防衛ラインを固める構えを見せ始めている。商業衛星の画像によると、ロシア側は各地に塹壕と対戦車防御施設の建設を進めている。「こうした動きにより、ウクライナ軍がロシア軍を攻めることは次第に難しくなるだろう」と、ランド研究所のダラ・マシコ上級政策研究員は指摘する。

長期の戦闘で激しいダメージを被っているロシアにとって、守りを固めて、冬を利用して時間を稼ぎ、その間に態勢を立て直そうとするのは、当然の戦略と言えるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アブダビ、540億ドルのインフラ計画で提携相手探し

ワールド

原油先物は約1.5%安、3日続落 供給増の可能性を

ビジネス

苦境のドイツ自動車産業、 雇用が10年ぶり低水準に

ワールド

中銀主導デジタル通貨に対する米監視法案、懸念は理解
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中