最新記事
自動車

水とCO2から作る──ポルシェがこだわり抜いた合成燃料、試験生産が始まる

What is eFuel? Porsche Uses Water, Wind And CO2 To Power Vehicles Kai Pfaffenbach-REUTERS

2022年12月22日(木)19時00分
フランキー・ネグロン

eフューエルはCO2を排出するが、もともと大気中から取り出したものなので実質排出量はゼロだ Kai Pfaffenbach-REUTERS

<エンジン車と既存の給油施設が使えるCO2排出実質ゼロのeフューエルでEVを補完する技術を目指す>

独自動車大手フォルクスワーゲン・グループ傘下のポルシェは、チリのパイロットプラントで夢の合成燃料「eフューエル」の試験的な生産を開始。近々、自社のレーシングカーでその性能をテストする。

ポルシェは、フォルクスワーゲンが推進する電気自動車(EV)開発を補完する技術として、環境に優しい合成燃料の開発を進めてきた。

同社はこの路線をeモビリティ(EV化)とeフューエルの「2つのe」を追求する「ダブルeパス」と命名。エンジン車のためのカーボンニュートラルな代替燃料であるeフューエルの開発・実用化を通じて、新たな合成燃料産業を創出する構想をぶち上げてきた。

eフューエルの試験生産が始まったチリのハル・オニ工場は、ゆくゆくは施設を拡張して本格的な操業に移行し、2020年代末には年間約5億5000万リットルのeフューエルを生産する計画だ。

eフューエルは、水を電気分解して作ったグリーン水素と大気中から分離したCO2で合成メタノールを作り、それをさらに加工した燃料で、ガソリン車とディーゼル車に使用できる。燃やせばCO2が発生するが、このCO2は元々大気中から取り込んだものなので、CO2排出量は実質ゼロとなる。また製造工程で使用される電力は、全て風力と太陽光発電で賄われる。

「エンジン存続」のパイオニアに

12月20日にハル・オニ工場の開所式に出席したポルシェの取締役(購買担当)のバーバラ・フレンケルは、EVを補完する技術としての合成燃料開発にかける自社の並々ならぬ意欲を語った。

「eフューエルの使用でCO2排出量を削減できる。交通部門全体を俯瞰するなら、合成燃料の大規模生産を世界中で推進する必要性があるのは明らかだ。eフューエルの試験生産で、わが社はこの分野の先陣を切る」

チリ最南端の港湾都市プンタアレナスにあるハル・オニ工場の開所式には、チリのディエゴ・パルドウ・エネルギー相も駆けつけた。フランケルと同じくポルシェの取締役のミヒャエル・シュタイナーが、この工場で初めて合成されたeフューエルをポルシェ911の燃料タンクに入れるセレモニーを行った。

シュタイナーとフランケルによると、チリは風力・太陽光発電の実績があり、独エネルギー企業シーメンス・エナジーの既存の輸送施設も使えることから、プラント建設に最適だったという。チリの事業会社ハイリー・イノベーティブ・フューエルズ(HIF)に加え、シーメンスとエクソンモービルもこのプロジェクトに参加している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中