最新記事

事件

現金3400万円残し孤独死した右手に指のない女 40年住んだ町で住民登録がない謎すぎるその正体は...

2022年12月22日(木)11時45分
武田惇志(共同通信社記者)、 伊藤亜衣(共同通信社記者) *PRESIDENT Onlineからの転載
「田中千津子」さんと思われる女性

遺品のアルバムにあった「田中千津子」さんと思われる女性の写真(出所=『ある行旅死亡人の物語』)


住所や名前の分からない死者は「行旅死亡人」と呼ばれる。兵庫県尼崎市のアパートで2020年4月、孤独死した女性は室内の金庫に現金3400万円を遺していた。この女性は一体、誰なのか。取材した共同通信記者、武田惇志さんと伊藤亜衣さんの共著『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版)より、一部を紹介する――。


現金3482万円を遺した謎多き女性

「本籍(国籍)・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円」

行旅死亡人の引き取り手を呼びかける、官報の公告記事が発端だった。相続財産管理人の太田弁護士によると、「田中千津子」さんとみられるこの女性は謎が多く、「弁護士を22年やってるが、かなり面白い事件」らしい。

2021年6月4日の昼すぎ、私は尼崎市にある太田弁護士の事務所を訪れた。奥の部屋に通してもらうと、すでに準備をしてくれていたようで、遺品や資料類が机に積まれていた。

関係書類がぎっしりと詰まっていたフラットファイルを机に広げ、メモを取るためのノートパソコンを起動させる。全部目を通して必要なところをメモするとして、数時間はかかるだろう。裁判所で訴訟資料を書き写すことには慣れていたが、今回は文字資料以外の遺品もあり、手間取りそうだった。

金庫にあった宝石類はなぜか所在不明に

どこから手をつけようかとファイルをパラパラとめくっていると、「遺産目録」の項目が目に飛び込んできた。目録には以下の4点が挙げられていた。

 ・通帳2冊:ゆうちょ銀行・三井住友銀行 名義はいずれも「田中千津子」
 ・キャッシュカード1枚 三井住友銀行 「タナカチズコ」名義
 ・年金手帳1冊 「田中千津子」名
 ・遺留金 34600520円

遺留金は、うち20万6000円を葬祭費に、1万4830円を官報広告掲載料へ充当し、さらに4230円を相続財産管理人選任に伴う官報広告費に充当したとある。行旅死亡人が財産を残している場合、このように諸手続きの費用に充てられるのだという。

なお、金庫にあった現金は新札ではなく、古い札を輪ゴムで留めたり、ビニール袋や封筒で小分けにしたりして保管されていた。さらに、金庫にはネックレスなど宝石類も数点あったことが判明しているが、なぜか後に所在不明となっている。

玄関先で絶命、死因に事件性はなし

尼崎市が神戸家庭裁判所に対し記した資料によると、遺体発見時の状況は次のようだった。

「令和2年4月26日午前9時4分に錦江荘2階の玄関先において左横臥に倒れ絶命している状態を発見された。死体検案の結果、令和2年4月上旬頃に死亡したことが判明した。死体の所持品から死体は『田中千津子』の可能性が高いため、尼崎東警察署により身元調査が行われたが、身元判明には至らず行旅死亡人として尼崎市へ引き継がれた」

5月8日付の「死体検案書」には、死亡の原因は「くも膜下出血」、死因の種類は「病死及び自然死」と記されていた。医師の所見によれば、死因に不可解なところはないというわけだ。

くも膜下出血というと、長時間労働による過労死などでもよく聞く症状で、いわば突然死に近い。女性はあるとき不意に、進行していたくも膜下出血により昏倒し、そのまま玄関先で絶命したのだろう。本人が死期を予期できたかどうかはわからない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

レバノン南部で国連要員3人死亡、インドネシア国籍 

ワールド

米、イランとの協議順調 紛争費用負担でアラブ諸国に

ワールド

米陸軍精鋭部隊、数千人規模が中東展開開始 イラン作

ワールド

中国の大手銀、金利マージン縮小の鈍化見込む 海外の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中