もはやゼロコロナをやめても中国経済の凋落は不可避...習近平「Dの四重苦」とは?

Xi’s Fourfold Economic Woes

2022年12月14日(水)16時26分
ゾーイ・リウ(米外交問題評議会フェロー)

中国人民銀行は既に、政府系銀行の融資能力を高めるため、担保補充貸出(PSL=金融機関への中長期の貸し付け)を再開している。具体的には9月に国家開発銀行と中国農業発展銀行、中国輸出入銀行に対して、総額1082億元(2兆1300億円)をPSLで注入した。

こうした国を挙げての景気刺激策は、インフレの抑制に必死な欧米諸国の対応と衝突するリスクをはらむ。

デカップリング(切り離し)

需要の低迷と債務の増大に加え、中国は自国の経済と西側、とりわけアメリカ経済とのデカップリングの可能性に備えるという難題に直面している。

もちろん、中国と欧米のデカップリングが貿易や投資の即時かつ完全な停止という形で起こる可能性は低い。しかし習が軍事力による台湾の「再統一」も辞さない構えである以上、中国経済を欧米の厳しい制裁にも耐えられるようにしておく必要はありそうだ。

もちろん中国も、既存のグローバルな金融システムから排除されることを望んではいない。しかし人民元を基軸とした代替的なシステムの土台を築こうとはしている。この新たなシステムには、中国の金融機関だけでなく諸外国や国際機関も参加する独立した決済ネットワークが含まれる。

さらに、中国はデジタル人民元を利用した金融のデジタル化を急速に進めてもいる。こうしたシステムに十分な数の国が参加すれば、欧米の制裁による影響をかなり相殺し、中国の地政学的な影響力が強まる可能性はある。

しかし、いかに習の権力が絶大でも、世界中をドル経済圏から離脱させることはできない。中国主導の代替システムはまだ能力も範囲も限定的だから、少なくとも現時点では、欧米の強力な制裁から中国経済を完全に守るには不十分だ。

一方、テクノロジーの分野では既に中国と欧米の間で、技術標準の違いやサプライチェーンの分断などが生じつつある。しかし現状では、アメリカの輸出規制に対して中国勢は弱い。

あの華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)も、アメリカの制裁措置によって昨年の売上高は過去最悪の減収となった。生き残るために、同社は収益性の高いスマートフォン事業を政府系の企業連合に売却した。

そして最先端の技術は諦め、アメリカによる輸出規制の対象にならない程度の半導体や技術を用いた製品で新たな市場を開拓しようとしている。アメリカの輸出規制強化で、中国企業は欧米の先進技術にアクセスしにくくなった。

8月時点でも、米商務省のエンティティー・リスト(取引制限リスト)には約600の中国企業が登録され、うち110社以上はバイデン政権の発足後に追加されたものだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中