最新記事

マレーシア

保育園を運営、イスラム法導入を訴える真の「勝者」──マレーシア総選挙

Malaysia’s Islamic Surge

2022年11月28日(月)19時05分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
PNのムヒディン・ヤシン、PASのハディ・アワン

PNのムヒディン・ヤシン(前列・左)とPASのハディ・アワン総裁(同・右) AP/AFLO

<総選挙ではいずれの政党連合も過半数を獲得できなかったが、結局、ベテラン野党指導者のアンワルが新首相に。だが注目は、欧米の「常識」に反するマレー系中心のイスラム政党PASだ>

マレーシアの新首相は、多民族的で進歩的な政党連合、希望連盟(PH)を率いるベテラン野党指導者のアンワル・イブラヒム元副首相か、マレー系とイスラム教徒中心の保守的な国民同盟(PN)のリーダーで、首相経験者のムヒディン・ヤシンか──。

11月19日、マレーシアで行われた第15回総選挙では、いずれの政党連合も過半数を獲得できず、政局は行き詰まりに。政権樹立に向けた交渉の結果、24日にアブドゥラ国王の任命を受けて首相に就任したのはアンワルだった。

だが真の「勝者」は、PNの一角である国内最大のイスラム政党、全マレーシア・イスラム党(PAS)だ。

下院222議席のうち、PASの獲得議席は単独政党として最大の49議席。2018年の前回総選挙での18議席から2倍以上増やした。

「万年与党」衰退の裏で

従来、PASの支持は主に、マレー系住民が多いマレー半島部の北部4州に限られていた。

シャリーア(イスラム法)導入を唱え、マレーシア人を「マレー系イスラム教徒」と定義するPASが中央政界で一大勢力に台頭するなか、マレーシア政治の未来に与える影響は未知数だ。

同国では、長らく与党の座にあった統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする国民戦線(BN)体制が劇的に崩壊している。

2018年総選挙では、BNがPHに敗北。マラヤ連邦として独立した1957年以来、UMNOは初めて下野した。

それでも今回の総選挙前、昨年8月に首相を辞任したムヒディンの後を継いだUMNO出身のイスマイルサブリ首相(当時)ら指導層は強気だった。州議会選挙でBNが圧倒的な勝利を続けていたからだ。

だがふたを開けてみれば、UMNOとBNはもはや勢力図から消えたのも同然だ。BNの獲得議席はわずか30議席で、2018年総選挙(79議席)と比べても大幅に数を減らした。

PASが伸張した主な理由は、UMNOをはじめ、マレー系主要政党にはびこる汚職や内紛と無縁なイメージをつくり上げたことにある。

UMNOは、マレーシアの政府系ファンド1MDBをめぐる不正疑惑から完全には立ち直っていない。

2018年、UMNO党首のナジブ・ラザク首相(当時)は1MDBから巨額を不正に受け取ったと報じられるなか、総選挙で敗北。今年8月に有罪判決が確定し、収監された。

一方、数十件に上る汚職容疑で起訴されていたUMNOの現党首、アフマド・ザヒド・ハミディは9月に無罪判決を受けたばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中