最新記事

アメリカ

10代女性のためのプログラミング本が、なぜ禁書に?──保守化するアメリカの教育現場

Book Bans Send Us Backward

2022年10月26日(水)13時57分
レシュマ・サウジャニ(ガールズ・フー・コード創設者)
プログラミング教育

10代女性へのプログラミング教育の提供に取り組んできたサウジャニ LARRY BUSACCA/GETTY IMAGES FOR THE WALTER KAITZ FOUNDATION

<女性が手に職をつけて、経済的自立を励ますプログラミング本を制作。しかし、女性の自立を望まない保護者たちがいるという現実を知ることに。「排除ブーム」と「親の権利」とは?>

アメリカの教育現場で台頭する「禁書」運動のことは、最近まであまり重視していなかった。一部の書籍(多くは歴史的・科学的事実を扱っている)の規制に、保守派が熱心なのは知っていた。

だが民主主義や世界の行方について不安を感じさせる出来事はほかにも多々あり、子供向けの本をめぐる問題は、その上位というほどではなかった。

変化が起きたのは今年9月24日の朝だ。テクノロジー業界の男女格差解消を目指して私が2012年に設立したNPO、ガールズ・フー・コードに関するグーグルアラートの通知の中に、ニューズウィークのこんな見出しが目に入った。

「今度は『侍女の物語』や『Girls Who Code 女の子の未来をひらくプログラミング』が禁止に」──。

記事を読むうちに衝撃は混乱に変わった。プログラミングを学ぶ少女たちの冒険を描く本が禁書になるわけがない。

表現の自由を擁護する文学・人権団体ペン・アメリカは先頃、今年6月までの1年間にアメリカ各地の学校で規制された書籍計1648冊のリストを公表した。そこには、確かに『ガールズ・フー・コード』シリーズ全4作の題名が掲載されていた。

混乱は激しい怒りに変わった。同作の目的はガールズ・フー・コードを設立したときと同じく、高賃金のテクノロジー業界で職を得て経済的に自立できるよう若い女性を励ますこと。

そうしたチャンスを最も必要とする少女たちは、コンピューターや安定したWi-Fi接続へのアクセスがない環境で育ち、声を届けることが最も難しい。だからこそ、書籍の形を選んだ。

禁書指定は私たちの使命への侮辱だ。それだけではない。少女たちに「プログラミングもチャンスもあなたとは無縁だ」という強力なメッセージを発信することになる。技術能力を獲得しようとする非白人・同性愛者・イスラム教徒の女の子は排除の対象だ、と。

私はその日、禁書運動を展開する保護者団体「自由を推進するママたち」にツイッターで呼び掛けた。アメリカでは昨年、書籍規制の事例の半数に、子供の教育に対する「親の権利」を訴える同団体などが関連していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、台湾への武器売却承認 ハイマースなど過去最大の

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中