最新記事

兵器

未知の兵器「汚ない爆弾」は核爆弾とどう違う?

How a 'Dirty Bomb' Actually Compares to a Nuclear Weapon

2022年10月25日(火)17時43分
マシュー・インペリ

防護服を着て放射能汚染に備えた訓練をする医療関係者(2013年、イスラエルのホロン) Nir Elias-REUTERS

<ウクライナが自国民に対して使うとロシアが言う「汚ない爆弾」とは何か。逆にこれを使おうとしているのはロシアではないのか、ウクライナ住民に恐怖が広がっている>

ロシアは10月23日、自国の領土に対して「汚い爆弾(ダーティーボム)」を使いう可能性があると警告した。ロシアのせいにするためだという。「汚い爆弾」とはいったい何なのか。

AP通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はアメリカやイギリスをはじめとする西側諸国の国防相と相次いで会談し、その際にウクライナが「汚い爆弾」を用いた扇動を行う可能性があると警告した。

ショイグの発言は、ウクライナの反転攻勢でロシアに奪われた領土の一部を奪還するなかで行われた。そのなかには、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が9月に一方的に併合を宣言し、10月19日に戒厳令を宣言した4州に属する土地もある。

ロシア劣勢のなか、プーチンが核兵器を使う可能性について、多くの懸念の声があがっている。さらにここに来て、ロシア側が「汚い爆弾」に言及したことにはどういう意味があるのか。

アメリカ原子力規制委員会(NRC)の定義によると、「汚い爆弾」とは、「放射性物質飛散装置」(RDD)の一種で、「ダイナマイトなどの従来型の爆発物に、放射性物質を組み合わせたもの」。まだ使用された前例はない。

大量「混乱」兵器

NRCは、「汚れた爆弾」に関する背景解説資料で以下のように述べている。「大半のRDD(放射性物質飛散装置)は、人を殺害したり、深刻な疾患を引き起こしたりするほどの放射線を出すことはない。むしろ、放射性物質よりも従来型の爆発物のほうが、人々により大きな被害をもたらすだろう。しかしながら、RDDが爆発すれば恐怖とパニックを引き起こし、周囲の環境を汚染する。元の状態に戻すには、放射性物質の除去費用など多額のコストを要するおそれがある」

また「汚い爆弾」は核爆弾とは異なる。核爆弾は、「汚い爆弾と比べて数百万倍強力な」爆発を引き起こすからだ。「汚い爆弾」は、核爆弾や生物化学兵器のような「大量破壊(mass destruction)兵器」とはみなされない。主な狙いが「汚染と不安」を引き起こす点にあることから、むしろ「大量混乱(mass disruption)兵器」であるとの見方を示している。

米戦略国際問題研究所(CSIS)国際安全保障プログラムの上席研究員で核問題プロジェクトのディレクターを務めるヘザー・ウィリアムズは、10月16日付の本誌記事で、ロシアとウクライナの間で現在起きている戦争で使用される可能性のある核兵器に言及した。

「現在話題になっているのは、戦術的な核兵器使用だ。これは現実的な懸念だ。これらの兵器は低出力で、射程距離も短い、戦場で使われるタイプの核兵器だ」と、ウィリアムズは本誌に語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メルセデスが米にEV納入一時停止、新モデルを値下げ

ビジネス

英アーム、内製半導体開発へ投資拡大 7─9月利益見

ワールド

銅に8月1日から50%関税、トランプ氏署名 対象限

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中