最新記事

ウクライナ戦争

「ロシア敗北」という現実が近づく今こそ、アメリカが思い出すべき過去の苦い失敗

America’s Conundrum

2022年10月5日(水)17時07分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)
ハイマース

アメリカの供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」。これで戦況は一転した ANASTASIA VLASOVAーTHE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<ウクライナの不屈の闘志と西側陣営の支援でロシアに運良く勝てたとしても、浮かれていてはアメリカは過去の失敗を繰り返すことになる>

紀元前431年、いわゆるペロポネソス戦争でアテネ市民に、スパルタ軍と戦う覚悟を求めるに当たり、政治家ペリクレスは言ったものだ。自分が最も「恐れるのは敵の武器ではなく私たちの自滅」であり、とりわけ自信過剰は禁物で、「戦争の遂行と他国の征服」をセットで考えるのは間違いだと。だがペリクレスの忠告は聞き入れられず、彼の後継者たちは戦争に深入りしすぎ、最後には無惨な敗北を喫したのだった。

時代は下って1793年、イギリスの政治家エドマンド・バークも、フランス革命政府との戦争に突き進む英国民に同様な警告を発した。いわく、自分が恐れるのは「わが国の強大な力、巨大な野望だ。わが国が(他国から)過剰に恐れられる事態が怖い。......この史上最強の力を乱用する気はないと、いくら私たちが言っても他国は信じてくれない。そして遅かれ早かれ、反英同盟を結んで対抗してくる。そうなれば、わが国も滅ぶかもしれぬ」。

だが、この予言は当たらずに済んだ。ある意味では、戦勝後も大英帝国の野望が、さほど膨らまなかったおかげである。

なぜ今、こんな昔の不吉な話をするのか。アメリカとその同盟諸国が、現下のウクライナ戦争で見事に勝利する可能性が見えてきたからだ。むろん、西側陣営にもっと先を見る目があれば、そもそもこの戦争は防ぐことができた。そうすればウクライナの領土も人の命も、こんなに失われずに済んだはずだ。

いずれにせよ、まだまだ仮定の話だが、ロシア政府の誤算とその軍隊の無能さ、ウクライナ人の不屈の闘志、西側陣営の強力な軍事支援と経済制裁が合わされば、最後に勝つのはウクライナと、その背後にいる西側陣営だろう。

これ以上に戦闘が拡大しないと仮定すれば(拡大する可能性は排除できないが)、そしてウクライナ軍の反転攻勢がこのまま続くとすれば、ロシアのメンツは丸つぶれだ。ウラジーミル・プーチン失脚の可能性もある。そうなったら西側陣営の天下は安泰だと、思う人もいることだろう。

勝利の果実を腐らせないために

核兵器の使用を回避でき、ウクライナの領土を(全てとは言わぬまでも)回復できるのであれば、道徳的にも戦略的な観点からも、上記のような展開は好ましいものと言える。筆者もそういう展開を強く望んでいる。だが、問題はその先だ。戦勝後に、アメリカはどう動くべきか。勝利の果実を腐らせないために、何をすればいいのか。

現時点でこういう話をするのは不謹慎かもしれない。だが軍事的勝利の勢いで暴走が始まったら、止めるのは難しい。実際、ソ連の平和的な解体で地政学的な大勝利を収めたとき、アメリカは古代ギリシャの賢者ペリクレスの忠告に耳を貸さず、結果として恒久的に平和な世界を構築する機会を逃した。私たちはその苦い経験に学び、今度こそ賢明に対処すべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国が秘密裏に核実験、米国が非難 新たな軍備管理合

ビジネス

ユーロ高、政治的意図でドルが弱いため=オーストリア

ビジネス

英シェル、カザフ新規投資を一時停止へ 政府との係争

ビジネス

ECB、インフレ下振れリスク懸念 ユーロ高を警戒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 8
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 9
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中