最新記事

核抑止

ロシアが「核」「第3次大戦」まで持ち出すなか、NATOが軍事演習を始める意味

Putin Threatens 'Global Catastrophe' if NATO Forces Clash With Russia

2022年10月17日(月)19時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

米軍主導の軍事演習でKC-135空中空輸機に接近するF-16戦闘機(2018年、エストニア) Ints Kalnins-REUTERS

<ウクライナのNATO加盟申請に神経をとがらせるロシア。高官は「第3次世界大戦にエスカレートすることは確実」とけん制するが>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月14日、 NATO軍とロシアとの間で衝突が起きれば「世界的な大惨事」につながるだろうと述べた。ウクライナ軍の反転攻勢を受けてロシアの核の脅威が増すなか、NATOは17日から核抑止能力を試すための軍事演習、「ステッドファスト・ヌーン(確固たる昼)」を開始する。

「ステッドファスト」には14のNATO加盟国が参加する。第4、第5世代の戦闘機や偵察機、空中空輸機を含めた航空機総数は60機にのぼる。14日の記者会見でプーチンは、ロシアとNATOの軍事衝突はいかなるものでも「危険な一歩」だと述べ、強い警戒感を示した。

ロシアが神経質になるのにはもう一つ理由がある。9月30日にロシアがウクライナ東・南部の4州を強引に「併合」すると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は即座にNATO加盟を申請すると表明した。ウクライナのNATO加盟は、軍事侵攻前からプーチンが恐れていたシナリオだ。ロシアの複数の高官は、NATOがウクライナの加盟を認めれば「第三次大戦」が起きかねないと述べている。

それだけにNATOがウクライナの加盟を認める可能性は低い。ウクライナがNATOの一員になれば、他の加盟国にはロシアからウクライナを守る義務が生じる。NATO対ロシアの戦争の引き金を引くことになる。

多くのNATO加盟国は今もウクライナに軍事支援を行っている。ウクライナが反攻に転じられたのはアメリカが供与している高機動ロケット砲システム(HIMARS)など西側の兵器の力に負うところが大きい。ウクライナは今、ロシアに占領された多くの地域を奪還するに至っている。

ウクライナのNATO加盟は自殺行為

だが実戦部隊を送り込むことはしていない。直接の軍事衝突は避けているわけだ。NATOへの新規加盟には30の加盟国すべての賛成が必要で、ウクライナにとって敷居は高い。

ロシア連邦安全保障会議のアレクサンドル・ベネディクトフ副書記は13日、ウクライナのNATO加盟は「第三次大戦へのエスカレーションが確実になることを意味する」と述べた。「その一歩が自殺的性質を帯びていることは、NATO加盟国自身が理解している」

ロシアのウクライナ侵攻後、NATOはスウェーデンとフィンランドの2カ国の加盟を受け入れる方針を示した。フィンランドが加盟すれば、NATOはロシア国境近く(モスクワからの距離は約1000キロ)に核兵器を配置できるようになる。加盟国にとっては国防の強化にもつながる。国際社会は両国の加盟がロシアに対する抑止力になることを期待している。

NATOの今度の演習はロシアが侵攻を発表する前から予定されていたものだし、西欧や北海上空などロシア国境からは1000キロ以上離れた場所で行われる。それでも、国際社会からは非難の声が上がっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言

ワールド

訂正-ジャワ島最高峰のスメル山で大規模噴火、警戒度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中