最新記事

中国外交

「上海協力機構」を西側諸国は冷笑するが、実は着々と「中国的・同盟」は拡大中

China’s Central Asia Focus

2022年9月28日(水)17時31分
ラファエロ・パンツッチ(英国王立統合軍事研究所の上級研究員)
SCO首脳会議

(左から)SCO首脳会議に臨むインドのモディ首相、カザフスタンのトカエフ大統領、キルギスのジャパロフ大統領、習国家主席、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領(9月16日、ウズベキスタン) SULTAN DOSALIEVーKYRGYZ PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーREUTERS

<習近平がコロナ後初外遊先カザフスタンを選んだのには深い理由が。今や世界人口の40%を擁する上海協力機構は、今や大きな意味を持つ>

9月14日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はカザフスタンを訪問した。習が新型コロナウイルスのパンデミック後初の外遊先に中央アジアを選んだことは意外ではない。

現代中国と中央アジアの関係は1991年末のソ連崩壊から始まった。ソ連崩壊は中国にいくつかの「遺産」を残した。1つは共産主義の支配構造を崩壊させないための教訓。もう1つは中国が特に神経をとがらせる地域に隣接する国境の紛争地帯で、こちらは中国の中央アジアとの関係の根底をなす問題となった。

ソ連の崩壊で中国は突然ロシア、カザフスタン、キルギスタン(現キルギス)、タジキスタンの4カ国と新たに国境を接することになった。ソ連との国境は常に辺境で境界も未画定だったため、新たに誕生したこれら4カ国との関係を確立し、国境を画定し、国境周辺の紛争地域の非武装化を図る必要があった。

そこで中国は96年、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ロシアと5カ国による協力体制「上海ファイブ」を創設。国境を画定し、今後の軍の駐留や越境貿易、これら4カ国との関係の在り方を確立することを目指した。

ところが上海ファイブは当初の目的をはるかに超えて拡大し、(少なくとも中国から見れば)非常に成功した。そのため、2001年にはウズベキスタンを加えた6カ国で上海協力機構(SCO)と改称し、正式発足した。

加盟理由は各国それぞれで、中国の関心が終始SCOの経済協力強化にあったのに対し、他の加盟国はやや懐疑的だった。結局、全会一致で支持されたのはSCOをテロ対策に主眼を置いた安全保障体制に発展させることで、SCOは中国が創設した初の国際的な安全保障の枠組みとなった。

国際社会で弱腰だった中国の変化

これは大きな前進だった。中国がSCO構築を主導していたのだから。それまで国際社会ではどちらかといえば弱腰で、当時まだ「韜光養晦(とうこうようかい、身を低くして時節を待つ)」という外交・安全保障の方針に徹しがちだった国がである。

ソ連崩壊以降、中国は中央アジアを通るシルクロードの「復活」を模索してきた。当初は中央アジアから東部沿岸までパイプラインと鉄道を建設し、好調な日本市場の、中央アジアの石油や石炭や天然ガスに対する需要に対応することに主眼を置いていた。だが中国経済の急成長に伴い、中国国内でこれらの資源の需要が高まり、新興市場との結び付きも求められるようになって、状況は一変した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 7
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 8
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中