最新記事

サイエンス

大気から水素を生成する技術が開発される

Scientists Create Green Hydrogen Fuel From Thin Air

2022年9月8日(木)16時27分
ジェス・トムソン

水が足りない場所で大気から水素が作れる  Vanit Janthra-iStock.

<豊富な淡水を必要とする従来の技術とは異なり、水がない砂漠でも水素の生成が可能になる>

研究者たちが、電気と大気中の水分だけを使って水素を生成する方法を発見した。

これまで水素の生成には液体の水を使用していたが、9月6日発行の英オンライン学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表された論文によれば、新たな「グリーン水素」は大気中の水分を電気分解することで生成する。この方法を使えば辺境地帯や乾燥地帯にも水素燃料を提供することができる可能性がある。論文を執筆した研究者たちは、大気中の湿度がわずか4%の環境下でも、電気分解装置を作動させることができた。

豪メルボルン大学・化学工学科の上級講師であるギャング・ケビン・リーは本誌に、「我々はいわゆる『直接大気電解装置』、略してDAEを開発した」と語り、次のように説明した。

「この装置は、常に大気にさらされた状態の、吸湿性のある電解質を使っている。この電解質が大気から水を自然に抽出し、ここに再生可能エネルギーによる電力を供給することで、環境に負荷をかけずに電気分解や水素生成ができる」

淡水が手に入らない砂漠でも

電気分解は従来、水の中に2つの電極を入れ、そこに電流を流すことによって、液体の水から水素と酸素を収集してきた。正電荷の電極である陽極で電子がH2O(水)から引き離され、水素イオンとO2(酸素)の分子になる。陰極では、水素イオンに電子が供給されて、H2ガス、即ち水素が生成される。

だがこの方法は液体の水を必要とするため、水が豊富にある地域でしか用いることができない。限られた飲料水を奪うことにもなりかねない。DAEならば大気中にある水を収集するため、どこでも水素を生成できるようになる。

「大気中の水分を使えるため、DAEは淡水が手に入りにくい乾燥・半乾燥地帯でも利用できる」とリーは説明。「地球上で太陽光・風力発電ができる潜在的可能性がある多くの地域で、淡水が不足している。たとえば砂漠は太陽光発電を行うのに適した場所と考えられているが、淡水がない」と述べた。「DAEは地球上のほぼ全ての大気環境で作動する。どの砂漠よりも乾燥している、相対湿度4%の環境でも実験済みだ」

モハベ砂漠は日中の平均相対湿度が10%から30%で、夜間には50%近くに達することもある。それを考えれば、DAEはきわめて乾燥した場所でも利用可能だということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英、貿易協定に署名 スターマー首相「強さの証」

ワールド

トランプ米政権のDEI研究助成金停止、連邦地裁が差

ワールド

テヘランから全員直ちに避難を、トランプ氏投稿

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイラン巡るG7声明に署名し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中