最新記事

ミャンマー

3つの矛盾が示す、ミャンマー軍事政権の邦人拘束と「ずさん捜査」

Slipshod Accusations

2022年8月29日(月)15時15分
北角裕樹(ジャーナリスト)

証拠の有無は気にしない

そして3番目は、筆者が昨年4月に拘束された経緯だ。報道官は会見で、国軍トップのミンアウンフライン司令官が8月11日、首都ネピドーで会談した渡辺博道衆院議員に伝えた内容を明らかにした。

それによると司令官は「以前の日本人記者(筆者)は、報道ビザを取得しており、本物の記者であった」と述べ、判決を待たず約1カ月で解放された筆者との違いを強調した。しかし筆者は、現地で立ち上げた情報関連企業の経営者として商用ビザと在留許可を得ていたのであって、報道ビザは取得していない。

犯行日など起訴事実に大きく関わる誤りがあれば、民主主義国の裁判制度では無罪となっても不思議ではない。これほどまでにミャンマー当局の捜査がずさんなのには歴史的な理由がある。

1960年代以降の長い軍事政権の中でミャンマーの裁判所は軍の強い影響下に置かれ、捜査当局の追認機関となっていた。政変まで5年間続いたアウンサンスーチー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権でも、司法改革は進まなかった。

この国では裁判官は事実関係や証拠に関わりなく有罪を宣告する。このため、当局は証拠の有無を気にする必要がないどころか、しばしば架空の事実をでっち上げてジャーナリストらを犯罪者に仕立て上げてきた。

2018年にロイター通信の現地記者2人が国家機密法違反罪に問われた際には、警察官があらかじめ2人に機密文書を渡し、その直後に別の警察官が逮捕している。事件に関与した警察官が「罠にはめろと命令された」と法廷で証言したにもかかわらず、2人は禁錮7年の有罪となった。

昨年2月の政変から1年半がたち、ミャンマー情勢は深刻の度を深めている。当初は数百万人の規模で抗議デモを繰り返していた若者らは、翌3月に自動小銃の掃射でデモが鎮圧されると、中国やタイとの国境にある少数民族武装勢力の支配地域に逃れた。

若者の一部はその後武装勢力の軍事訓練を受けた。そして9月、民主派勢力でつくる国民統一政府(NUG)が武装蜂起を呼び掛け、国軍との内戦に突入した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中