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日韓関係

韓国での関心の薄さが際立つ......元徴用工「現金化」確定先送り

2022年8月24日(水)15時30分
佐々木和義

韓国・尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領就任100日目の会見...... Chung Sung-Jun/Pool via REUTERS

<元徴用工訴訟をめぐる日本企業の韓国内資産の売却可否について、韓国・大法院は判断を先送りした......>

韓国の最高裁に相当する大法院は、三菱重工業の韓国内資産の現金化を先送りした。2018年11月、大法院は三菱重工業に対して原告1人あたり1億ウォンから1億5千万ウォンの賠償金の支払いを命じる判決を下し、三菱側は支払いを拒絶した。

大法院は三菱重工業の韓国内資産を差し押さえ、競売にかける準備をはじめた。大法院が下した現金化命令に三菱が抗告し、抗告棄却期限の8月19日を過ぎたが、大法院は決定を下していない。本審理を経て現金化の可否判断が行われることになる。

日本企業の「資産現金化」をめぐって

韓国大法院は2018年10月、4人の旧朝鮮半島出身労働者、いわゆる徴用工が日本統治時代に徴用被害を受けたとして損害賠償を求めた訴訟で、新日鐵住金(現日本製鉄)に対して賠償金の支払いを命じ、翌11月には5人の元労働者が三菱重工業を相手取って起こした訴訟でも賠償金の支払いを命じる判決を下した。

日本は統治時代の賠償問題は1965年の日韓基本条約と請求権協定で解決済みという立場で、三菱が支払いを拒絶した。原告は資産の差し押さえと現金化を求める訴えを起こした。

2021年8月、水原地裁が、三菱重工業が韓国企業に売却した商品代金の差し押さえ命令を下したが、債務者である韓国企業が取引先は三菱重工業ではなく別会社と説明、原告代理人が申請を取り下げた。

大法院は原告の訴えに基づいて三菱重工業の商標権と特許権を差し押さえ、現金化命令を下したが、三菱側が抗告を行なった。

決定を下さなかった主審判事は9月4日に退官

大法院が現金化を先送りした背景に政権の意向があるとみられている。三菱重工業の韓国内資産の現金化は大法院の決定に基づく措置である。一方、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は現金化を望まない。現金化が行われると、日韓関係の悪化が否めず、改善を求める政権にとって痛手となる。

大法院が日本企業に賠償金支払いを命じた2018年、日本政府の抗議に対し、当時の文在寅政権は司法の独立性を唱えた。また、外交部も司法の決定を尊重すると述べるが、人事権は政府にある。裁判所の決定と政府の意向に挟まれた判事が決定を先送りしても不思議ではない。

今回、決定を下さなかった主審判事は9月4日に退官するため、一部メディアはそれまでに決定が下されるとみているが、後任に委ねる可能性も考えられる。抗告を棄却すれば政権と対峙し、受け入れると元労働側の批判に晒される。決定を下さなければ批判を浴びることはない。

尹錫悦大統領「韓日関係を早期に回復、発展させていく」

尹錫悦大統領は日本統治からの解放を記念した8月15日の光復節の演説で「韓日関係の包括的な未来像を提示した『金大中・小渕共同宣言』を継承し、韓日関係を早期に回復、発展させていく」と述べ、17日の就任100日目の会見でも「過去最悪だった日本との関係を迅速に回復し、発展させている」とし、「韓日関係は現在の北東アジアと世界の安全保障状況に照らしても、緊密に協力しなければならない」と日韓関係を重視する姿勢を強調した。

また、いわゆる徴用工問題について「判決を執行する過程で日本が憂慮する主権問題の衝突なく、債権者が補償を受けられる方策を講じている」と述べ、円満解決を図りたい意向を示した。

政府は賠償金を韓国政府が立て替えて日本側に請求する代位弁済を検討しているという。韓国政府が代位弁済を行っても日本側が支払う可能性は皆無に等しく、韓国企業と日本企業、国民からの出資金や寄付金を募って基金を設置する案を検討している。

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