最新記事

エネルギー

南アフリカで進む個人の太陽光発電導入 停電多発で富裕層が導入

2022年8月22日(月)10時07分
ヨハネスブルク郊外の屋根に設置された太陽光パネル

南アフリカでは停電が日常茶飯事だ。だが同国最大の都市ヨハネスブルクに住むピエール・モローさん(68)は、自宅の屋根に太陽光パネルを取り付けているおかげで、対話アプリで近隣住民の不平を目にするまで停電が起こっていることに気付かない生活を送ってい

南アフリカでは停電が日常茶飯事だ。だが同国最大の都市ヨハネスブルクに住むピエール・モローさん(68)は、自宅の屋根に太陽光パネルを取り付けているおかげで、対話アプリで近隣住民の不平を目にするまで停電が起こっていることに気付かない生活を送っている。

自宅のサウナでくつろぐのが好きだというモローさん。「私には一定の生活水準がある。自分らしい生活を送りたい」と語る。

南アはこれまで石炭火力発電に固執してきた。しかし電力危機が深刻化して国民の怒りが爆発し、ラマポーザ大統領はこのほど再生可能エネルギーの利用を高めるための規制緩和を約束した。

しびれを切らした多くの国民は政府の措置を待たずに行動を起こし、小型太陽光パネルのブームをもたらしている。

モローさん宅の太陽光発電は、隣接する彼の事務所の電力も賄っている。「電力無しではいられない。それだけのことだ。停電になれば毎分毎秒、収入が失われる」

ロイターが通関データを分析したところ、南アは今年1―5月だけで約22億ランド(1億3500万ドル、約180億円)相当の太陽光パネルを輸入したことが分かった。アナリストによると、これはピーク時の発電能力にして500メガワット余りに相当する。

南アで設置済みの小型太陽光パネルの総発電能力は推計2.1ギガワットで、今年の輸入分が設置されればこれが約24%増える計算だ。政府が10年間かけて公益部門に導入してきた太陽光発電の規模を超えることになる。

南アフリカ太陽光産業協会の広報、フランク・スペンサー氏は「これほど大きな産業になったことに政府はまったく気付いていない。静かなる革命だ」と語った。

機会損失も生まれている。

南アは大規模な停電を終わらせるために発電能力を4―6ギガワット拡大する必要がある。しかし民間の太陽光発電施設はほとんど当局への登録義務を守っておらず、従って余剰電力を公共電力網に送っていない。

また太陽光パネルは高額なため、少なくとも現時点では比較的裕福な人々しか導入することができず、ただでさえ世界最悪に近い南アの格差社会をさらに分断化させている。

「金持ちなら自力で調達できる。だが苦しんでいる人々はパネルを買うカネなどない」と語るソリー・シラウレさんは、約半分の国民と同じく失業中だ。

石炭火力からの転換

豊富な日光と風力に恵まれる南アだが、政府はこれまで再生可能エネルギーの導入に及び腰だった。民間の公益部門規模の再生可能エネルギー計画は、鉱業労働組合からの圧力によって何年も凍結され、2021年に再開されたばかりだ。

しかし国営電力会社エスコムが重債務を抱えて危機に陥ったことで、早急に代替エネルギーを確保する必要性が高まってきた。エスコムの電源の80%は石炭火力だ。

真っ先にそこに気付いたのが、太陽光発電企業グランビル・エナジーを経営するタビ・タビ氏だった。同社は昨年、屋根に取り付ける太陽光パネルについて1カ月間で349件もの問い合わせを受けた。

「過去2年間ほど、月を追うごとに需要が増えてきた。幅広い先から関心が寄せられている」という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中