<大統領も「今はいい考えではない」と述べた、台湾訪問。しかし、ペロシ下院議長は1991年にも北京の天安門広場を電撃訪問し、民主化を訴える横断幕を掲げている。今、強行すれば、台湾海峡は一触即発に>

ナンシー・ペロシ米下院議長のせいで、筆者は中国当局に拘束されたことがある。といっても、ペロシが議会民主党の幹部になる前の1991年9月のことだ。

米下院議員団の一員として北京を訪れていたペロシが、別の2人の議員と正式な行程を抜け出し、天安門広場に行くらしい──。そんな情報が、当時CNNの北京支局長だった筆者の元に寄せられた。

だが、ペロシら3人が、テレビカメラの回っている前で、その2年前の天安門事件で死んだ民主活動家たちに花を手向けるという話は聞いていなかった。しかも「中国の民主化のために犠牲になった人たちのために」という横断幕まで用意しているとは......。

何も知らなかった広場の警察官たちは激怒した。だが、外国の要人に手を出すわけにはいかない。だから彼らの怒りの矛先は、われわれジャーナリストに向かった。ペロシらが車で広場を立ち去る一方で、われわれは手荒く警察にしょっ引かれたのだった。

中国共産党を刺激するペロシのパフォーマンスを初めて見てから31年。彼女は今、中国を取り巻く環境がさらに緊迫していて、ジャーナリストが乱暴に連行されるよりもずっと重大な結果になる恐れがあるなか、台湾訪問というはるかに挑発的なパフォーマンスをしようとしているらしい。

実現すれば、アメリカの下院議長が台湾を訪問するのは25年ぶりとなる。だが今は、中国が武力によって台湾を統一する懸念がこれまでになく高まっている上に、米中関係はここ数十年で最悪で、25年前とは状況が著しく異なる。

引くに引けない事態に

中国政府は既に激しい不快感を示し、ペロシが台湾を訪問すれば強硬な対応も辞さないと警告している。下手をすれば、事態が一気にエスカレートしかねない。

ただ、ワシントンでは、ペロシの台湾訪問を取り巻く状況には不透明な部分が多い。第1報は英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が、6人の匿名の情報源の話としてペロシの8月の訪台計画を報じたのだが、一体誰がどういう目的で情報をリークしたのかが分からない。

ペロシの関係者が宣伝効果を高めるためにリークしたのか。それとも政権内の誰かが、ペロシの訪問を阻止する目的でリークしたのか。あるいは、単なる情報管理の不備か。ペロシ自身は、報道陣から台湾訪問の可能性を問われても、明言を避けてきた。

そんななか、ジョー・バイデン米大統領が報道陣の質問に対し、「米軍は、今は(台湾を訪問するのは)いい考えではないと思っている」と答え、少なくともペロシの訪問案が存在することを認めた。

中国政府は「前例のない対抗措置」を講じると警告