最新記事

東南アジア

ミャンマーで日本人ジャーナリスト拘束 民主派デモを取材中に

2022年7月31日(日)10時28分
大塚智彦

最近の現地情勢の確認不足が原因?

ヤンゴン在住の関係者によると「久保田さんは最近のミャンマーの情勢を正確に把握しておらず油断した可能性がある」と指摘する。

クーデター直後は民主派のデモや集会がヤンゴンを始め全土で展開され、治安当局も極端な鎮圧や暴力を行使せず、その模様は内外の報道陣を通じて国際社会に広く伝えられた。

しかし2021年後半から治安当局による弾圧が強化され、大規模な集会はほとんど開かれず、デモも「フラッシュモブ」という小規模・短時間のゲリラ的デモに様変わりし、ネットに上げられるデモのニュースも参加者が当局に特定されないように顔にモザイクが駆けられるように変化した。

久保田さんが拘束された30日の南ダゴン郡区でのデモも小規模なものだったとされ、デモ隊のごく近くで撮影中だったため余計にデモ隊を撮影する久保田さんが目立ったのではないかとみられている。

関係者は「最近ミャンマーに入国して来たのではないか。そのため最近のデモ取材の危険性をよく理解していなかった可能性がある」と指摘する。

現在ヤンゴンなどに滞在するジャーナリストは大半が地下に潜伏しており、デモなどの取材を含めて不用意な外出は一切せずに息を潜めて当局の監視や当局のスパイの目を避けているという。

ミャンマーでは2021年4月18日にフリージャーナリストの北角祐樹氏がやはりヤンゴン市内での民主派デモを取材中に当局に「虚偽のニュースを流した」との容疑で身柄を拘束されている。北角氏は日本側の釈放要求もある中その後5月14日に釈放され、無事日本に帰国している。

北角氏が拘束された当時と現在のミャンマー情勢は大きく異なり、治安当局による民主派市民への弾圧は苛烈となっている。

各地で民主派組織がクーデター後に組織した「国民統一政府(NUG)」メンバーや参加の武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」参加者への軍の攻撃や殺害、そのほかにも無抵抗、非武装、無実の一般市民への殺害を含む残虐行為、人権侵害が頻発している。

そんななか、7月23日には軍政はヤンゴンのインセイン刑務所に収監中だった死刑判決が確定していた民主派政治犯4人に対し1976年以来初となる死刑執行に踏み切り、民主派やミャンマーもメンバーである東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧米、国連からも厳しい批判を浴びている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国連大使が板門店訪問、北朝鮮擁護やめるよう中ロに

ビジネス

資産運用会社、過去2年余りで最も強気=BofA月例

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

アングル:輸入企業の為替管理に狂い、迫られるリスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中