最新記事

東南アジア

比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交

2022年7月28日(木)20時20分
大塚智彦
ロシア製の戦闘ヘリコプターMi―17

ロシア製の戦闘ヘリコプターMi―17 Mian Kursheed - REUTERS

<国際情勢が緊迫するなかで、東南アジアのリーダーが決断した選択は──>

フィリピンがロシア製の戦闘ヘリコプター16機の導入を断念したことが明らかになった。

フィリピンの国防相を務めたデルフィン・ロレンザーナ氏は26日夜、ロシア製戦闘ヘリMi―17(ミル17)16機の購入契約が取り消されたことを明らかにしたという。AP通信が7月27日に伝えた。

16機のMI―17導入はドゥテルテ前大統領が政権末期に決裁したもので、導入総額は127億フィリピンペソ(約308億6500万円)で、2019年のドゥテルテ前大統領とロシアのプーチン大統領との会談で大筋合意に達していたという。

導入断念の背景には2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という要素が大きく占め、この今の時期にロシア製軍装備を導入することは国際社会の反発、特に同盟国である米政府によるフィリピンへの制裁発動を懸念した結果であるとの見方が有力だ。

曖昧戦術の2方面政策

フィリピンは6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)新大統領による新政権がスタートしたばかりで、7月25日にマルコス新大統領は初めての施政方針演説を行った。

約1時間にわたりマニラ首都圏ケソン市にある下院議場で行われた施政方針演説ではその大半を国民の最大の関心である経済政策の課題、方針に費やされた。

わずかに言及された外交・安全保障問題では中国との間で島嶼や環礁の領有権問題が存在する南シナ海(フィリピン名・西フィリピン海)に触れて「フィリピンの領土を1平方ミリメートルといえども譲らない」としたうえで「領土保全と国家主権に関する現在、将来の安全保障上の脅威に備えるため国軍の構造を変える必要がある」として1935年に制定された国防法の改正を求めた。

フィリピンは安保では米の同盟国として中国には強い姿勢で臨んでいるが、中国海警局の船舶による度重なる南シナ海でのフィリピン船舶への航路妨害、放水などの挑発には乗らず、対抗措置も中国への抗議に留まるという「曖昧戦術」に終始している。

その一方で経済面では中国が一方的に唱えている「一帯一路」構想の一環として続ける経済支援、インフラ整備、投資の促進などに依存している。

こうした「曖昧戦術」による「2方面」外交の舵取りがフィリピンのしたたかな姿勢へとつながっている。ただ、これはドゥテルテ前大統領時代の政治を踏襲したもので、マルコス新大統領の政権としての新鮮味には欠けているといわざるを得ない状態だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中首脳会談が終了、関税・レアアースなど協議 対立

ワールド

日中首脳会談を調整中=高市首相

ワールド

日銀、6会合連続で政策金利を据え置き 高田・田村委

ワールド

Azureとマイクロソフト365の障害復旧、一時数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中