最新記事

ウクライナ情勢

HIMARS使用を高く評価されるウクライナ軍だが、いずれロシアに研究される

Holding On

2022年7月19日(火)16時22分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

侵攻当初には首都キーウ(キエフ)に向かうロシア軍の補給車両が無防備にも長い列を作り、ウクライナ軍の奇襲攻撃を受けた。そして今、当時と同じような待ち伏せ攻撃を受けている。

米外交政策研究所の研究員で、米海兵隊にも所属したロブ・リーは、ロシアの備えが不十分だったのは明らかだと指摘する。

「ウクライナが以前から、HIMARSの供与を求めていたことは分かっていた。入手すれば攻撃を仕掛けてくることも、ミサイルの性能についても分かっていた。しかし、ロシアは何をしただろうか。十分な対策を講じたようには、全く見えない」

当局者らによれば、米国防総省はウクライナへのHIMARSの供与に時間をかけた。ウクライナに使いこなせるかどうかが不安だったからだ。この点は、歩兵戦闘車ブラッドリーに搭載する多連装ロケット砲を供与したドイツとイギリスも同様だった。

だがアメリカとヨーロッパの当局者らは、ウクライナ軍の標的の選び方を高く評価しているという。ウクライナ軍は体系立てて標的を選び、ロシア軍の補給線を阻み、指揮所を攻撃して、敵の進軍をほぼ完全に停止させようとしている。

あるウクライナ軍高官によれば、軍は国内にあるロシア軍の全ての施設を破壊するため、前線の後方およそ8キロの地点にある標的を狙って攻撃を繰り返している。

「ウクライナ軍は組織的に標的を選び、それらを正確に攻撃し、ロシア軍の能力を確実に低下させている」と、米国防総省のある高官は先頃、記者団に語った。前出のウクライナ軍高官はフォーリン・ポリシー誌に対し、ロシア軍は攻撃を受けて指揮所を前線から後退させているが、対応は機敏さに欠けると述べた。

ウクライナを待つ冬将軍

だがウクライナ当局者らは、今ある武器では形勢逆転には不十分だと考えている。例えばウクライナは、HIMARSの車体から発射可能で射程が約300キロの陸軍戦術ミサイル(ATACMS)の供与を要請しているが、バイデン政権はこれに応じるつもりはなさそうだ。

ウクライナがロシア国内の標的を攻撃し、紛争をエスカレートさせることを恐れているためだ(ウクライナ側はそのような攻撃はしないと言明している)。

反汚職活動センター(本部キーウ)の共同創設者で、西側諸国からの一層の武器供与に賛同するダリア・カレニウクは「現状では効果的な反撃には不十分」と言う。「これまでウクライナ軍にできたのは、何とか損失を減らすことだけだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中