最新記事

中国経済

2030年代に世界一の経済大国になるも、「豊かな経済大国」にはなれない中国

CAN CHINA OVERTAKE THE U.S. ECONOMICALLY?

2022年7月22日(金)07時43分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

例えば今年2月から、ほぼ全てのプラットフォーム企業は国外で株式を上場する前にサイバーセキュリティーの審査を受けなければならず、資金調達が非常に難しくなった。

昨年夏には休日や夏季・冬季休暇中の学習塾の授業を禁止し、民間の塾産業はほぼ壊滅した。一連の規制強化で、累計2兆ドル近い市場価値が吹き飛んだことになる。

中国の経済政策は当面の間、国際的な統合と効率性を犠牲にして、国家管理、再分配、自給自足を優先させる可能性が高い。

既にアメリカが主導する経済のデカップリングに対抗して、輸出を中心とする外需(外循環)と国内消費を中心とする内需(内循環)を組み合わせた「双循環」という新しい戦略を打ち出し、内需主導の成長を目指そうとしている。

理論上は魅力的な戦略だが、大きな困難が待ち受けている。内需拡大には個人所得が増えなければならず、そのためには生産性の向上が不可欠だ。

しかし、残念ながら中国の生産性は停滞し始めている。全要素生産性(TFP)は98~08年には年平均2.8%の健全な成長だったが、09~18年の成長率は年平均0.7%にとどまっている。

イノベーションと経済改革への投資を増やして生産性の伸びを高めることもできるが、中国共産党は国家資本主義を優先させるため、民間部門は十分な支援を受けられず、研究開発支出の多くは国有企業で無駄になる可能性が高い。

加えて深刻な所得格差を是正しなければ、実質的に内需を引き上げることはできない。

20年5月に李克強(リー・コーチアン)首相は、中国には月収1000元(約150ドル)の人民が6億人(非就業者を含む)と発言し、世界に衝撃を与えた。膨大な潜在的消費者が最低限の生活費以上の収入を得られない限り、中国の内需拡大が成功しないことは明らかだ。

格差是正の解決策として、習は「共同富裕(みんなで豊かになろう)」を掲げる。これも理論上は正しいが、現実には困難だ。公表されている政府文書や習の演説を考えると、政府は経済に影響を与えずに格差を是正する包括的で実行可能な計画を持っていないようだ。

それでも「第2位」は手ごわい

21年前半に共同富裕のスローガンを発表した後も、政府の社会支出が増えることはなく、人口の下位半分の所得を改善するための手段も講じられていない。むしろ、「資本の無秩序な拡張」を防止するとして、最も裕福な人々の所得を減らすことを重視しているようだ。

こうした間違ったアプローチは貧困層の所得を引き上げることなく、民間部門の活力を抑制するだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中