最新記事

中国経済

2030年代に世界一の経済大国になるも、「豊かな経済大国」にはなれない中国

CAN CHINA OVERTAKE THE U.S. ECONOMICALLY?

2022年7月22日(金)07時43分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

220726p18_CKH_03.jpg

中国は習近平の下で経済改革が後退している(写真は上海にある中国共産党第1回代表大会記念館の大スクリーンに映る習) ANDREA VERDELLI/GETTY IMAGES

欧米諸国が関税引き上げなど保護主義的な措置に加え、企業に働き掛けて製造拠点の脱中国化を進めれば、中国の対米輸出(21年には5050億ドル)と対EU輸出(同じく4950億ドル)は大幅に減るはずだ。

21年には中国の輸出総額は3兆3000億ドルでGDPの18.6%を占めていた。輸出頼みの現状では、欧米向けの輸出が激減すれば中国経済の成長には急ブレーキがかかることになる。

習の統制強化が成長を阻む

この40年ほどで中国の科学技術水準は目覚ましく向上したが、高度な製造技術や半導体、新素材など特定の先端技術ではいまだに西側に大幅に後れを取っている。西側との関係悪化でデカップリングが進めば、中国は欧米の進んだ技術にアクセスしにくくなり、技術の進歩にも支障を来す。

習政権は巨費を投じて野心的なイノベーション推進事業に着手している。それによりある程度の技術力向上は期待できるにしても、研究開発で西側の情報を入手できないデメリットを相殺するには不十分だ。

おまけに中国が軍事力でもアメリカに対抗するためには、今よりもはるかに防衛予算を増やさなくてはならない。21年の中国の軍事費は2930億ドル。アメリカの軍事費(8010億ドル)の約36.5%にすぎない。

軍備拡大競争の相手はアメリカだけではない。ロシアのウクライナ侵攻で地政学的なバランスが変わるなか、アメリカの同盟国も対中抑止力の強化を目指している。この動きに対抗するには、中国は今後何年も軍事費を増やし続けなければならない。

武器に金を使えば、パンを買う金は減る。中国が現在GDPの1.65%を占める軍事費をその2倍の3.3%に増やすには(アメリカの軍事費はGDPの約3.5%)、インフラ建設や教育・医療費など生産性の向上に不可欠な予算を最低でも毎年3000億ドル削る必要がある。

こうした事情を見てくると、中国の高度成長を妨げる最大の障壁はアメリカと映るかもしれないが、それは一面の真理にすぎない。中国の経済成長の最大の敵は中国政府と言っても過言ではないからだ。

ポスト毛沢東時代に中国が奇跡の成長を遂げたのは、政府が市場経済を積極的に導入したおかげだ。ところがこの10年ほど、習主席の指導下で中国の経済改革は後退の一途をたどってきた。習政権は非効率な国有企業を民営化するどころか、その特権を温存した。

それ以上に始末が悪いのは、最近になって民間企業への規制を強化し始めたことだ。この2年ほど、規制当局は民間部門、特にテクノロジー企業を狙い撃ちにして締め付けを強めてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸

ワールド

中国で一人っ子政策の責任者が死去、ネットで批判の投

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中