最新記事

米景気

景気後退に備えて米大手銀の現金保有残高が急増、もうただでは引き返せない

As Recession Fears Grow, Consumers Tap Savings While Banks Sock Away Cash

2022年6月15日(水)17時29分
ジャレン・スモール

個人向け金融情報提供会社ナードウォレットの最近の調査によると、インフレのせいで、アメリカの消費者の間では、食料、ガソリン、住居費など必需品の支払いのために貯蓄に手を付けざるをえない人が増えている。

また、金融情報誌バロンズによれば、パンデミックの間の景気刺激策として政府が国民に支払った現金給付のおかげで一時減少したクレジットカードの利用残高は、今は再び増加に転じ、年率16%という記録的な伸び率に達している。

物価と債務の上昇は貯蓄率の低下とあいまって、個人消費の減少につながると経済学者は予測する。このところ、記録的な消費需要に牽引されて成長を続けてきたアメリカ経済にとって、よくない話だ。

ペイパルのダン・シュルマンCEOは、最近スイスで開催された世界経済フォーラムで、こうした新たな動向に懸念を表明した。

専門家パネルと共に講演したシュルマンは、生活費の高騰と高インフレのダブルパンチで、アメリカ人は貯蓄を猛スピードで使い果たし、年末までには手元の現金は尽きてしまうだろうと言う。

「低所得者層では、すでに消費が減っている」と、シュルマンは言う。「その傾向が今、中所得者層に移行しつつある」。

短期的解決は困難

国民の経済力と購買力の縮小をめぐる懸念は、政府も共有している。

ジョー・バイデン大統領は5月には「インフレとの戦い」を経済政策の最優先課題として正式に宣言。6月10日に8.6%という予想外の高かった5月のインフレ率が発表されると、すぐさま訪問先のロサンゼルスでメッセージを出した。

「私は、インフレがアメリカの家庭にとって真の難題であることを理解している」と、バイデンは語った。「今日発表されたインフレ率は、われわれがすでに知っていることを裏付けるものだ」

だがバイデンの強気にもかかわらず、年内の経済の見通しは依然として暗い。

ミネアポリス連銀の前総裁で、現在はロチェスター大学教授の経済学者ナラヤナ・コチャラコタは、短期的に経済状況が好転することはない、と見ている。

「ひとたびこのレベルのインフレになると、政策手段によってインフレ率を引き下げるには、いったん失業を増やす方法しかないだろう」と、コチャラコタは言う。「失業とインフレは、どちらも政治的コストが大きい」と、彼は付け加えた。「だから簡単に解決できるような策はない」


ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

モルガンSが北海ブレント価格予想引き上げ、OPEC

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

ペルー、メキシコとの国交断絶表明 元首相の亡命手続

ワールド

中国、日本など45カ国のビザ免除措置を来年末まで延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中