最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ戦線、狭い範囲での長期戦へ...「解放戦争」から「絶滅戦争」に移行の様相

With Front Lines Static, Ukraine and Russia Shift Forces For Long War

2022年6月10日(金)17時58分
マイケル・ワシウラ
ドネツィクのウクライナ兵

ドネツィクのウクライナ兵(5月31日) Serhii Nuzhnenko-REUTERS

<ロシアは戦闘地域をウクライナ東部に絞りつつあるが、そこでは砲撃などで街を完全に壊滅するという方針がとられているようだ>

ロシアが仕掛けたウクライナにおける戦争は、より大型の兵器を用いたものになる一方、より狭い範囲の地域を巡る戦いとなっている。焦点は開戦直後に争われたウクライナ北東部の首都キーウやハルキウといった主要都市から、戦闘の激しさが増す一方の東部戦線に点在する小さな町の攻防戦へと変化している。ウクライナとロシアの双方は、東部ドンバス地方での消耗戦に備えるようになった。

東部ドネツィク州のヴォルノヴァーハやリマン、セベロドネツィクといった、これまであまり知られていなかった場所では、永遠に続くかと思われる集中砲撃によって、市民生活の維持がほぼ不可能となっている。両軍はともに、戦場で決定的な勝利を収められずにいる模様だ。ウクライナ東部では、双方の支配地域を示した地図がほとんど変化しなくなっている。砲撃と膠着状態は、今後もしばらく続きそうな状況だ。

5月初めからのウクライナとロシアそれぞれの支配地域の変化 @Nrg8000/Twitter


ロシアが本格的な攻撃を始めた当初は、侵攻した空挺部隊と機甲部隊がウクライナ北部を蹂躙し、首都を攻め落とそうとした。しかし、北部のキーウやハルキウの制圧を目指したものの、ウクライナ軍による待ち伏せ奇襲攻撃により、おおかたが撃退された。

その一方、南部で展開するロシア軍の作戦はおおむね成功し、マリウポリを起点に、そこから西へ約250マイル(約400キロメートル)離れ、ドニエプル川を越えたヘルソンに至るまでの一帯を確保した。南部前線におけるこの戦いは依然として激しいが、真に破壊的な戦闘が起こっているのは東の地域だ。

「東部一帯ではロシアがかなり優勢」

独立系のオープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリスト、ヘンリー・シュロットマンは本誌に、現在の軍事的均衡について語ってくれた。「ロシア軍は大まかに言って、イジュームからリマン、セベロドネツク、ポパスナまでの一帯に集中している」。シュロットマンはロシア側についてこう述べた。

東部で現在ロシアが重要視し、激戦が行われている地点 @TheStudyofWar/Twitter


また、東部前線で展開するウクライナ軍にも触れ、こう説明した。「東部一帯では、砲兵力でも兵士動員数でも、ロシアがかなり優勢だ」

おそらくマリウポリでの戦闘を別とすれば、東部前線における戦いが、これまでで最も激しいものとなっている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月22日の記者会見で、東部ではウクライナ兵が1日あたり50人から100人も死亡していることを明らかにした。その後もしばらく砲撃が続いたことから、犠牲者の数が減少しているとはとうてい考えられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中