最新記事

ロシア

TVが真実を伝えないロシアで、陰謀論集団「Qアノン」がプーチンを疑いはじめた

2022年4月26日(火)14時15分
青葉やまと

プロパガンダに警戒

これに対し、ロシア内の一部Qアノン支持者たちはやや傾向を異にする。世界的なQアノンの動きに反し、ロシアのQアノン・チャンネルでは侵攻開始以降、バイオ研究所陰謀論は急速に沈静化した。アメリカが戦争を裏で主導しているとの主張もほぼ聞かれなくなっている。カナダ系米メディアの『ヴァイス』は、「ロシア内部の陰謀論支持者たちは、プーチンの戦争をまったく異なる目でみていた」と論じる。

もっとも、ロシアのすべてのQアノン支持者が侵攻を疑問視しているわけではない。しかし、少なくとも情報の真偽に注意を払う習慣は着実に広まりつつある。9万人のフォロワーをもつQアノンロシアは、ロシア国営メディアによる報道を引用した3月2日の投稿のなかで、「出典が公的な機関だからといって、必ずしも内容の真実性が保証されるものではありません」との注意書きを添えた。

また、ロシアの別のQアノン・チャンネルは、米議会が出資する欧州報道機関である『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』による客観的な報道を多く引用するなど、中立的な情報の拡散に心を砕いている。

支持者からすれば、これまで信じてきた陰謀論が、結果的にウクライナでの殺りくを肯定する流れとなった。この事実への戸惑いは大きいのだろう。英シンクタンクに務めるキーラン・オコナー氏はベリングキャットに対し、ウクライナ侵攻をどう受け止めてよいかという葛藤が陰謀論コミュニティにはあると指摘する。「ウクライナ情勢に関し、彼らの陰謀論的な世界観にうまくあてはまるような立ち位置を探るのに苦労しているのです。」

これまで侵攻を支持してきたQアノン・チャンネルのなかにさえ、プーチンへの批判に転じるものが現れた。10万人のフォロワーを擁する『Big Shock Theory』は4月9日、「プーチンはドルと西側諸国を打ち砕こうと決意した英雄などではない」と訴えている。

ロシア国営メディアがプロパガンダを広めるなか、もともと謀略に敏感な陰謀論集団が、結果的に侵略の正当性に厳しい目を向ける展開となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中