最新記事

ロシア

TVが真実を伝えないロシアで、陰謀論集団「Qアノン」がプーチンを疑いはじめた

2022年4月26日(火)14時15分
青葉やまと

トランプ大統領のキャンペーン集会に集ったQアノン 2020年 REUTERS/Patrick Fallon

<報道を疑いやすい気質が功を奏したとみえ、侵攻の正当性を疑う声が集団内にこだましている>

ロシアに住む多くのQアノン信者が、ウクライナ侵攻の正当性に疑念を抱きはじめた。調査報道グループの『ベリングキャット』が報じた。

もともと影の意図に敏感な陰謀論支持者たちは、侵攻正当化のプロパガンダにまみれたロシアにありながら、プーチンの方針に疑問を投げかけている。図らずも陰謀論のコミュニティが、一般的なロシア国民よりも真実に近づいた構図だ。

2月の侵攻直後、メッセージアプリ「Telegram」上のロシアQアノン用のチャットには、「神よ、ロシアとウクライナを救ってください」との反戦メッセージが書き込まれた。「私たちはお互いを認めあっています。私たち皆の罪をお赦しください。本来はそうあるべきなのです!」

その後もチャットには、プーチンのプロパガンダに警鐘を鳴らす書き込みが続いた。国営メディアが展開するプロパガンダを真に受けることのないよう、チャンネル登録者たちに対して複数の投稿者が警告している。

登録者数9万人を誇る『QAnon Russia』のチャンネルでは、ウクライナ人を殺害しないようロシア兵らに対して求めるメッセージが相次いだ。すべての参加者が賛同しているわけではないものの、ベリングキャットは特定のQアノン用チャンネルにおいて、反戦の投稿が「驚くほど頻繁」にみられると報じている。

一般的なロシアのネットメディアには侵攻以降、戦争を正当化するコンテンツが溢れている。Qアノンで起きた動向は、こうした一般のネット上の反応とは対照的だ。

ロシア外では侵攻肯定論も

ただし、Qアノン全体として足並みが揃うわけではない。世界各地のQアノンは一般に、ウクライナ侵攻を賛美する傾向がある。

そもそもQアノンとは、アメリカ発祥の極右系陰謀論だ。「ディープ・ステート(闇の政府)」と呼ばれる悪魔信仰者と小児性愛者の集団が世界を支配していると主張し、トランプ前大統領の再選を通じてその打倒を掲げる。近年では主張が派生し、反ワクチン運動や無線技術の5G陰謀論なども誕生した。

ロシアがウクライナに侵攻すると、多くの支持者は侵攻に賛同した。支持者の一部は、アメリカが影で操るバイオ研究所がウクライナ国内に30拠点ほど存在し、生物兵器や次期型コロナウイルスなどを開発していると信じている。

支持者たちに浸透したシナリオにおいては、プーチンは闇の政府による生物兵器の使用を食い止めるため、トランプ氏と組んで正当な目的でウクライナに侵攻した、と解釈されている。

バイオ研究所にまつわる風説は古くから存在したが、ウクライナ侵攻後、あるQアノン関連のTwitterアカウントが発信したことであらためて耳目を集めた。英ガーディアン紙は、「そのひとつのツイートから、陰謀論は急速に拡散した」と振り返る。

市場調査を手掛けるYouGov社によると現在では、「米国防総省が資金提供するウクライナの研究所が、ロシアに生物兵器を散布しようとしている」ことが「間違いなく」または「おそらく」事実だと考える人々は、アメリカ人の4人に1人以上を占める。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

欧州、ウクライナ和平巡る協議継続 15日にベルリン

ビジネス

ECB、成長見通し引き上げの可能性 貿易摩擦に耐性

ワールド

英独仏首脳がトランプ氏と電話会談、ウクライナ和平案

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中